図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

教育学徒が藝大の研究者をつかまえてガチの教育用ボドゲを作ってみた結果

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図書館総合展もいよいよ来週となりましたが今回の手土産はこちらとなります。

 

近年、図書館でのゲーム収蔵についての議論が起こっています。ゲームも著作物だから、もちろん図書館の収蔵対象です。我が国はコンテンツ立国などを頑張るつもりなのだから、ゲームアーカイブの必要性も周知されているでしょう。

デジタルゲームである場合、ゲーム機やバージョンの保管や権利関係の処理などいろいろ大変ですが、アナログゲームなら物理的実体ひとつあれば再生環境が必要ないので保存の手間がちょっとだけ少ない……ような気がします。詳しくは格闘系司書様にお任せします。以下の本をどうぞ。

書籍詳細(JLA出版物)JLA図書館実践シリーズ 39『図書館とゲーム―イベントから収集へ』

 

 そんな訳で図書館でボドゲやるのは自然なことなのです。それが現役研究者が全面協力したガチの教育用ゲームとなればなおさらです。さらに、今回の図書館総合展はMLA連携特集で、美術館をもターゲットにしているのです。これはもうアート系ゲームを投げ入れるしかない!!

そんな訳で企画したのがこちらです、皆さん応援誠にありがとうございました。

camp-fire.jp

このゲームは『真贋のはざまで』と言い、タイトルはかの東大企画の名展示会『真贋のはざま』にインスパイアされており、ゲームのフレーバーはギャラリーフェイクの影響を受けています。

ギャラリーフェイク 全23巻セット (小学館文庫)

ギャラリーフェイク 全23巻セット (小学館文庫)

 

※20190523追記

『真贋のはざまで』は株式会社やのまん様への権利売却に伴い、2019年5月末日をもってウニゲームスからの販売を終了いたします。

それまでは以下より通販を行っております。
https://unigames.booth.pm/items/1036372

これはどんなゲームなの? -ルールと制作秘話

 このゲームでは、プレイヤーは様々な事情を抱えて裏社会のアートオークションに参加するキャラクターとなり、『モナ・リザ』やムンクの『叫び』といった名画の売買に参加します。

しかし当然それらの名画の大半は真作ではありません。参加者は話術と知識を駆使してオークションにかけられている絵画の真価を見抜き、欲しい絵画を集めていきます。

絵画は全部で8種類、それぞれ4枚(モナ・リザのみ6枚)ずつあります。それぞれ『真作』『贋作』そして『価値ある複製』があり、真作と価値ある複製は1枚ずつしかありません。タダ同然の贋作と比べて真作や価値ある複製は非常に高価であり、贋作を避けて高価な作品を買い集めることが基本方針となります。

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さて、ではどうやって『真作』『贋作』そして『価値ある複製』を見分けるのか?各絵画の裏にはこの通り鑑定書がついており、この鑑定書の内容は34枚あるすべての絵画カードで異なります。これらを藝大の西洋美術史研究者である巖谷先生、髙木先生にお願いしました。

両先生には絵画の選定から携わって頂きました。お願いした条件は

  • 誰でも知っている名画であること
  • パブリックドメインになっていること
  • 一枚以上の『価値ある複製』が存在する絵画であること

です。

結果、価値ある複製として"模写"、"工房作"、"習作"、"競作"、"オマージュ"そして歴史的価値のある"贋作"といった多彩な顔触れが出揃うことになりました。

クラウドファンディング時の趣意書にも書いたことですが、今のわが国におけるアカデミズム業界の不遇っぷりは目に余るものがあります。人文学の面白さという価値を、アカデミズムの外にいるひとにも広く知って頂ければと思いました。両先生方にはその趣旨をご理解いただき、美術史のキャッチーな面白さを引き出す絵画の選定・解説をして頂けましたが、改めて感謝をいたします。

それって何が面白いの? -気を付けたこと、変えたこと

残念ながら教育用ゲームの成功例は、アナログ・デジタルを問わずそれほどありません。流行る流行らない以前に、ゲームとして面白くならないのです。個人的には、教育用ゲームの失敗因は以下のようなものと考えています。

  • 教育効果を期待するあまりゲームの内容を詰め込みすぎ、ゲーム性を犠牲にしてしまう。
  • ターゲティングが漠然としており、年齢や習熟度によるプレイヤースキルの差を吸収できていない。
  • ゲーム自体への習熟と目的としている教育効果とが一致しない。

その一方で、教育用ゲームにはゲームデザインの面で以下のようなメリットもあります。

  • 娯楽以外の目的でも手に取ってもらいやすい
  • 誰もが少しは知っているフレーバーを採用でき、親しみを持ってもらいやすい

『真贋のはざまで』は、ブラフと運要素が多めですがゲームメカニクスとしてはシンプルな競りゲーです。ただそこにプロの長文解説というフレーバーが加わることでブラフにぐっと厚みが加わり、「これはちょっと真剣に見聞きしなければマズいぞ」という雰囲気の演出に成功しています。ここは完全にフレーバーの勝利です。

また、ゲームバランスも運と論理的思考力と知識がバランスよく入り乱れ、負けた時に「くっそー、もう一回!」と思えるくらいの適度なくやしさを感じられるように調整しました。

そしてとりあえず説明書裏をびっしり埋めているこの参考文献一覧を見てください、本気であることが分かってもらえると思います。なお、一番下には初学者向けおススメ入門書まで記載されています。

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「図書館×ゲーム」というコンセプトを知った時から、ゲームをきっかけに今まで読まなかったような本を手に取ってもらえるならすばらしいなとずっと考えていました。本作のテストプレイ会を開催すると、絵画が配布された瞬間に皆さんが裏面を熟読して猛勉強を始めてくださり、実によかったなぁと思っています。もしどこかの図書館のゲーム会で『真贋のはざまで』を使っていただけるなら、ぜひこちらの参考文献と入門書を隣に並べて開催していただけると幸いです。

本作は10/30から横浜で開催される図書館総合展の「図書館でゲーム部」ブースにて実物展示を行うほか、東京ゲームマーケット2018秋にて発売します。詳細は以下をご覧ください。

gamemarket.jp