読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

一年間の新刊貸出猶予にあたって、図書館から出版社にお願いがあります

今月開催された図書館総合展において、新潮社の社長が図書館に対し一年間の貸出猶予を求めるとした報道が出ています。

news.tbs.co.jp

一応この場にいた人間としまして、本発言のニュアンスをできる限り正しくお伝えしますと

  • あくまで「特定のタイトル」の貸し出しに対し「一定の配慮」を求める「お願い」であり、強制力はない。従わない図書館がいても構わない
  • 所蔵副本冊数や具体的な貸出数等についての具体的制限は設けない。あくまで図書館側の自主的な配慮に任せる
  • 本件を強く要望しているのは著者たちであり、出版社としてはそうした声を抑えきれない
  • 出版社としては、図書館での貸出と新刊本の売上に明確な因果関係が現時点であると言い難いことは把握している。
  • こういうことは本のジャンルによる差が大きく、文芸書以外の分野では図書館が買い支えている側面があることも理解している。図書館との関係を悪化させるつもりはない

……といった非常に抑えたトーンの話であり、報道は煽ってるなーというのが率直な感想です。

 

ただ確かに図書館貸出冊数の増加と新刊書売上点数に負の相関がある*1のも事実であり、因果関係は現状あるともないとも言い切れません。本件について著者側の疑念に決着をつけるには、こうした措置を行って"実験"をしてみる以外の方法はないように思います。本件が実際に発動した場合、出版社におかれましてはぜひそうした統計を取ってもらいたいです。

また図書館の中のひと的にも特に反発はないものと思います。「まー残念だけれど権利者さんが言うならそうしようか?」くらいに捉えている方が多いような感触です。多分本件に強い反発を覚えているのは一般の図書館ヘビーユーザーの方なのではないでしょうか。

 

しかし図書館員に感情的な反発がないとはいえ、一部の本を特別扱いしなければならない訳ですから、事務作業の手間が増えます。できるだけミスなく新刊本を受け入れて出版社や著者のご要望に沿うために、出版社その他書籍流通関係者におかれましては単なる要望だけではなく下記のような配慮をお願いできませんでしょうか*2

  1. 該当書籍を見計らい本から外す
    図書館に購入されると分かり切っている見計らい本に、貸出猶予対象の本が入っているとチェックに手間が取られます。そのような本を図書館に持ってこないようにお願いしたいです。
  2. 新刊案内ならびにMARCに注意書きを記載
  3. 月ごとに「貸出可能になった本一覧」を配信
    出版社数社合同で、TRC発注バーコードつきの貸出可能本タイトル一覧をお送りいただけると、タイミングよく購入できて便利です。その時点での在庫の有無もあればなおいいですね。
  4. 該当書籍の奥付に貸出猶予期間を記載
  5. 各出版社は「現在の貸出猶予タイトル一覧」を公開
    図書館利用者にご説明しなくてはなりませんので、各出版社のWEBサイトに「現在の貸出停止申請タイトル一覧」を掲載しておいて頂きたいです。図書館のオンラインOPACからそのページにリンクをしますし、また印刷して各図書館の館内にも掲示します。
  6. 貸出猶予に関するお問い合わせ窓口の開設
    図書館員が窓口などで新刊貸出猶予について個別に利用者にご説明するのは大変な手間です。貸出猶予タイトル一覧と共に各出版社のお問い合わせ電話番号を館内に掲示しておきますので、そうした窓口の開設をお願い致します。別に専用窓口でなくても構いません。

……うーん他に何かあるかな……まだアイデアのある方はコメント等いただけますと幸いです。

 この思い、とどけ出版社に!

 

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

 

 

※いくつかいただいたコメントに関して追記(20151115)

「本の人気に関わらず同じ冊数を所蔵すればいいのでは?」

 これはちょっと難しい話なのですが、何度も貸し出される人気のある本は損傷が激しく、100回も貸し出されると再購入を検討しなければならないくらいボロボロになります。図書館には本をそれなりの期間保管するという役目もあるので、1年くらいでボロボロになり廃棄しなければならないと分かり切っている本の副本を持たない、というのは厳しいのではないかと思います。基本的に図書館はそういった資料の損失も考慮して副本を購入しており、単純な貸出数増加のためばかりに副本を購入している訳ではありません。電子書籍の貸し出しが一般的になれば、また事情は変わってくるのかもしれません。

「貸出猶予をお願いされてるだけなのだから、禁帯出にしたらよいのでは?」

貸出猶予対象の本の具体的な所蔵について新潮社の方から特に言及はなかったのですが、貸出猶予期間中の各館の対応としては下記の4つが考えられると思います。

  1. 該当書籍を購入・所蔵しない
  2. 該当書籍を購入するが利用には供さない(書庫にしまう、展示のみ行うなど)
  3. 該当書籍を購入し館内利用にも供するが貸出はしない
  4. 該当書籍を購入し、普通に貸し出す(「お願い」を聞かない)

本稿では1の路線で話をしましたが、この「お願い」をどのように解釈するかは各館で異なることと思います。また現段階では新潮社の方も1~3のうちどの路線を採用してもらいたいかについて明確な考えがないように見えました。

 個人的には実験的な意味合いから、図書館が一切該当書籍の売上に影響を与えない状態での数字を見たいので、1の方針を採用しました。ただ本件が実際に発動した場合、各感がどの方針を選ぶかには興味がありますので、それはそれで何らかの調査を期待しています。

*1:図書館総合展フォーラム内では図書館の館数と本の売上の相関も指摘されていました。確かに図書館の分館数が多ければ多いほど本が借りやすくなるので、もしそこに何らかの因果関係があるのであれば、単位人数当たりの分館が多い地域と少ない地域で書店の売上数に差があるでしょう。追って調べてみたいテーマです。

*2:元ネタは@syoujinkankyo様との雑談ですw