職員集団を「学習する組織」に育てるべし
……えー、図書館学の五法則においても「図書館は成長する有機体である」が最後にして最大の法則であったように、この項目も最後にして最強のアドバイスです。
まず、御幸町図書館の職員は館長の豊田氏からしてよく調査しています。本書の中には前川恒雄からフィリップ・コトラー、ドラッカー、ピーター・センゲまでも引用され、最新のビジネス書にも多く言及しています。また、SNS等現代のインターネット動向についてもよく研究しておられます。
冷静に考えると、今ベンチャーを起業したいと思ったとして、mixiもニコ動も知らない人にビジネスの相談なんかしたくないです。その点、この図書館は安心です。
前回も書きましたが、この図書館は組織の都合上全ての職員が最長5年でいなくなってしまいます。そのため、すべての職員は絶えず学び続け、少しでも早く専門的な技能を身につける必要があります。
こういった状況は一見すごいデメリットに見えますが、実は様々な知識や人的ネットワークを持った職員が次々と入ってくるため、それらを図書館運営に活用できるという利点があります。これも利用者のみならず職員においても様々な人を受け入れる公共図書館の強みと言えるでしょう。
御幸町図書館における職員教育の様子は「第五章 ニーズを知り、組織を変える」pp.78-pp.81に詳しく記述されています。豊田氏はここで、図書館を「学習する組織」にするためのポイントとして以下の3点を挙げています。
学習を技術や知識の習得にとどめず「気づき」として捉える
「気づき」とは「分かった!」という体験のことです。単なる知識の暗記ではなく、応用可能で組織の変化に対応可能な能力の育成を目指します。また「わかった!」という体験は学習参加へのモチベーションとなります。
学習を奨励し、促進する組織文化をつくる
身分や勤続年数等による差別なく、職員それぞれが自由に学びあい、教えあう文化が必要不可欠です。特に失敗からは多くを学べるため、失敗を隠すような組織文化は最悪です。
多様な学習資源を発掘し、活用する
豊田氏は学習資源の例として3つ挙げています。
一つ目は仕事の経験です。職員に自由にミニコーナーを作らせ、その資料の動向を見せることで多くのことを学べます。
二つ目は職員相互を学習資源とします。職員同士がワークショップや普段の業務連絡等を通し、お互い学びあいます。ここで、もし失敗隠しの風潮が館内にあれば、この学習は必ず失敗してしまいます。
最後は組織の外の学習資源です。実はここに、先ほどちらっと挙げた組織連携の一形態が活用されます。
単純に外部講師の招聘してのセミナーを行ってしまうと、経費がかかります。しかし御幸町図書館では連携組織の一つである産学交流センターのビジネス支援講座を無料で使用させてもらうことで、研修にかかる経費の問題をクリアしています。
直接的なユーザー支援での連携ももちろん必要ですが、こういう職員への支援において連携しようという視点は、個人的にとても重要だと思います。色んな形や対象での連携を視野に入れれば、一見直接的な関係のなさそうな組織とも協力しあえるのではないでしょうか。
以上、御幸町図書館の組織運営の舞台裏を覗き見しましたが、これらのアドバイスは図書館のみならず普通の企業でも十分参考になるものです。さすがビジネス支援図書館、世のビジネス組織のお手本にもなってすばらしいですね:)