図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

(※図書館話です)主人がパスファインダーブログを開設して一か月が経ちました……

タイトルは釣(ry

 

事の発端は畏友 id:Koshian 氏とのこんな会話でした。

 

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ではやってみようということでできたのが『書架とラフレンツェ』というブログ内にある以下の記事です。


やる気とモチベーションは関係ない - 書架とラフレンツェ


それでも「好きなことで、生きていく」。慈悲はない。 - 書架とラフレンツェ


嘘つきヤリ捨て男にムカついたときのおススメ小説&映画 - 書架とラフレンツェ


採用で失敗しない、たった一つの冴えたやり方 - 書架とラフレンツェ


なぜ、お金持に増税してはいけないの? - 書架とラフレンツェ


日本人の宗教観はどこまで外国人と違うのか - 書架とラフレンツェ


そろそろ「プログラマー35歳定年説」を徹底論破しとくか - 書架とラフレンツェ

お陰様ですべてホッテントリ入りしました、ありがとうございますありがとうございます。


それが何だっていうの? - パスファインダーがコンテンツ力を持つということ

パスファインダーの実例は例えばこういうところから確認できます。さすが図書館の外のひとにほとんど存在を知られていないだけあって、失礼ながら目が滑るレベルのつまらなさです。ただ、よく見ると《ケース3:離婚したら年金はどうなるの?》など、掘り下げればもっと面白くなりそうなテーマも散見されます。

もったいない、実にもったいない。

 

パスファインダーは利用者を面白がらせるものではない、という話はその通りです。パスファインダーは問題解決のツールであり、エンタテイメントではありません。そのことは大前提として、今回はそれでも「その問題に関心がある」「その問題を解決したいと思っている」ひとに"刺さる"ために、あえてコンテンツ力を高めて多くのひとに見てもらうよう作成しました。どんな素晴らしい問題解決ツールも、それを必要としているひとに届かなければ意味はない、と思うからです。

特定のカテゴリに属する消費者に確実に選好されることを、マーケティング業界のジャーゴンで「刺さる」と言います。パスファインダーにとって"刺さる"ことは、それが問題解決のツールだからこそ必要な特性なのではないかとも考えています。

 

そして、そもそも問題解決はコンテンツとして面白いものです。それは"刺さる"情報だからです。クリステンセン先生の言葉を引くまでもなく、情報を求めるひとは常に問題を抱えており、それを解決したいと考えています。ヒマつぶしのためにダラダラTwitterを眺めているひとですら「ヒマを何とかしたい」という問題を抱えているものです。
だから、図書館が持つパスファインダやブックガイドをそれなりに面白いコンテンツに仕立て上げるのは、単なる話題作り以上に意義のある試みだと思っています。

 

一体どうやったの? - コンテンツ力のあるパスファインダーの作り方

失礼ながら一般的なパスファインダがコンテンツとしてつまらないのは、それがカバーする範囲が広すぎて意味がある情報に見えないからです。意味のある情報はパーソナルに見えるものです。万人受けするようには見えません。

何故かというと「問題」はパーソナルなものだからです。そもそも「その問題を抱えているひと」という括りを適用した時点で対象者が限定されるのはもちろんなのですが、問題を抱えているひとはみんな「自分だけがこの問題で悩んでいる」と思っているという心理的特性があります。ですから閲覧者は万人に当てはまるように見える情報を避ける傾向があります。それはある意味合理的な情報探索行動です。同じ問題でも解決策は色々あり、ひとによってどれが最適かは異なるからです。

だから、一見ニッチで「こんな細かい話気にする奴いるの?」と思えるほどに絞り込み具体性を高めたトピックの方が、結果的に多くのひとに刺さることになります。

 

記事の作成に当たっては出来る限りタイトルを「そのトピックに興味を持つひとにとって」キャッチ―なものにするようにしました。キャッチーな釣りタイトルそれ自体はいわゆる「リンクベイト」と呼ばれるややブラックハットなSEO技術ではありますが、いまどき単なるリンクベイトでは衆目を集められません。"釣る"相手として、記事中で取り扱っている問題に興味を持つひとを想定し、あくまでそのひとたちにウケやすいタイトルをつけました。また記事中の言葉遣いも、想定する対象読者に合ったものにしています。内容さえしっかりしていれば、釣りタイトルでもちゃんと読んでもらえるし拡散されるということも実証できました。

一般的なパスファインダーの作り方はこちらなどに紹介されています。加えて、やはりおそらく一般的なパスファインダー作成者の皆様が留意されているだろう以下の点には注意しました。

  • 特定の結論を押し付けないようにする。地の文で述べる"自説"は一般論にとどめる。 *1
  • 紹介する資料は原則として学術的に公正なものを選ぶ
  • トピックに対して可能な限り網羅的な情報が提供できるように資料を選ぶ

加えて、オンラインで不特定多数に役立ててもらうに当たって以下の点にも気をつけました。

  • その資料を選んだ理由を書く。記事内でトピックに含まれる論点を解体して再構築し、資料の案内においてストーリーを作る
  • 可能な限り入手しやすい資料を選ぶ(絶版・再版未定本を除外する)
  • 学部2年生程度の知識で読み通せる難易度までの資料を選ぶ

資料は1記事につき上記基準に合致するもの20-30冊程度を選び、そこから取捨選択しました。

わたしの専門は教育学と経営学領域なのでその辺りは自力での資料選択を行いましたが、その他分野にかかる一部の記事内容については各分野のエキスパートレビューを受けています。ご協力いただきました皆様にはこの場で再度お礼を申し上げます。ありがとうございました。もちろん、文中の誤りやその他至らぬ点の責任は一切わたしにございますことは言うまでもありません。

 

なお、個人的にはパスファインダーはレファレンス依頼におけるFAQのように捉えておりまして、つまり「ある程度繰り返される(ことが想定される)質問や相談に対する回答をあらかじめ文書にしたもの」であればなんでもアリだと思っております。パスファインダー極左です(キリッ)。

ただパスファインダーというからには、調査方法について踏み込んだ言及ももっと必要だったと思っており、そこは今後同様の記事を書くならば取り組んでみたい改善点です。

 

それでどうなったの? -アクセスログアフィリエイト収益から見るコンテンツ力

冒頭に上げた7記事で総アクセス数は約13万、読者登録数は100人を超え、アフィリエイト(Amazon アソシエイト)収益は約23,000円でした。
また、売り上げた本のうち約半分はKindle版でした。基本的にKindle版が存在する場合、Kindle版の方から優先的に購入されていきました。

流入元ははてなブックマークが最も多く、次にGunosyTwitter、SmartNewsの順でした。しかしながら記事によっては様相が違うものもあり、GIGAZINEやLifehacker、まなめはうすなどからのまとめの流入が多い記事もありました。オーガニック検索からの流入は全体の10%程度ですが、これはブログ開設からあまり期間がなかったことなども考え合わせるとそんなものだろうと思います。

以下、記事ごとに詳細を解説いたします。


やる気とモチベーションは関係ない

主に企業内での職業訓練時のモチベーションコントロールについて関連書籍を紹介しています。教育活動全般に広く応用できる内容を目指しました。
時節柄このテーマについて関心の高い方が多かったようで、第二位のアクセス数を集めています。Gunosy砲の影響も全アクセス数の1/3ほどありました。*2


それでも「好きなことで、生きていく」。慈悲はない。

職業・キャリア形成について悩んでいるひとに対して、少し大局的な視座を提供する資料を選びました。あまり質問に答えているものではなく、どちらかというとブックガイドです。紹介している資料は一見ハウツー本に見えるものの、実は視野を広げ閉塞感を緩めるのに効果的なものを選んでいます。


嘘つきヤリ捨て男にムカついたときのおススメ小説&映画

これもパスファインダーではなくブックガイドですね。タイトルの通りです。これだけは計画的に書いたものではなく、当時インターネッツ上で話題になっていたトピックの便乗記事的なものです。


採用で失敗しない、たった一つの冴えたやり方

「採用」というテーマをメインにしているものの、中身は企業内での実践的な能力評価の話です。能力評価に特化したのですが、これに対して「採用後の教育は考えなくてもいいということ?」というお問い合わせが散見されたので続編として「そろそろ「プログラマー35歳定年説」を徹底論破しとくか」を書きました。


なぜ、お金持に増税してはいけないの?

特に文中では触れなかったのですが、狙い通り「ピケティのことかーッ!!」な閲覧者がたくさん来訪されました。記事内容はピケティ本を読む上でもピケティ関係なくても役に立つような富裕層に対する社会学的な実態調査、ならびに格差や税制について考える上での基礎資料集を目指しました。
紹介した中でも『私たちはなぜ税金を納めるのか―租税の経済思想史―』は計42冊を売り上げたのですが、紹介次第で到底キャッチーとは言えないカタい内容の本でもちゃんと興味を持ってもらえるのだなーという手応えを感じました。


日本人の宗教観はどこまで外国人と違うのか

主に宗教を軸とした、日本と諸外国との比較文化学の入門書になるような資料を集めています。山本七平を採用したのは純粋な学術的正しさというより、インパクトファクこれ以後の類書への影響の大きさ、ならびに論拠となる主要文献が明示されている点を評価してのことです。
このテーマには切り口が多いので、出来る限り効率よく網羅的に各アプローチを紹介する資料を揃えました。


そろそろ「プログラマー35歳定年説」を徹底論破しとくか

この実験の最後になるので一番オーディエンスを集める記事にしようと思い、無事そうなりました。タイトルにはプログラマーと記載しましたが、そうでない方にも多く読んで頂けたようです。
内容は成人の企業内における職業教育やキャリア形成を考える上で役立つ資料を、経営学的な観点を取り入れつつ揃えています。


文献紹介リンクをアフィリエイトにしたのは、一体どれほどのひとがそれらの資料を心から「読みたい」と思ってくれたかどうかを知りたかったからです。もし資料に対して興味を持っていただいたなら、それらの資料の詳細を知るべくリンクをクリックするはずです。その数を知りたかったのです。結果、総クリック数は9359でした。

また実際に売れた本や興味を集めた本を見ると、本来ならば(失礼ながら)学部生がレポートで嫌々読まされるような本が割と人気です。例えば『脳からみた学習』や『私たちはなぜ税金を納めるのか』などは(どちらも大変面白い本ですが)決して読みやすい本でも話題になった本でもエンタテイメント性の高い本でもなく、その分野に関係のない方が自分から進んで読みたくなるような部類の本ではありません。

しかし、見せ方さえ変えれば一見退屈な学部の教科書だって売れるようです。ユースケースに着目したマーケティングの基本ですが、「誰がターゲットになるか?」という発想を捨てて「この本はどんな問題を解決するか?」と考えれば、自然とその本が持つ本来のメリットをアピールできるように思います。


結論: パスファインダーやブックガイドで十分集客できます。*3

 

おまけ: それでこれからどうするの?

実験用とはいえ、週に1本それなりに内容のある記事を書くのは骨の折れる作業でした。しばらくは充電期間として、がっつりとパスファインダー系記事を書くのはお休みするつもりです。「書架とラフレンツェ」はゆるい読書ブログとして存続していきたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

こちらからは以上です!

*1:このようなポリシーに基づいて記事を書いていたため、一部の読者からは「結局結論は何?」といったツッコミを受けましたが、これが総じて記事中では明確な結論を出さなかった理由です。ご容赦ください。

*2:アクセスの総数としてはGunosyの方が多かったのですが、捕捉が早くて密だったのはSmartNewsの方です。やるなスマニュー!

*3:アクセス解析アフィリエイトログ共にこれ以上の細かいデータも色々ありますが、ここでは非公開とさせていただきます。Closedな場であれば喋るかもしれません(?)