「わからせる」にはどうすればいいか -理解とモチベーションのコントロール
「何度説明しても分かってもらえない、説明の仕方が悪いのか」
「どうも興味を持ってもらえない、やる気がないのか」
といったところで詰まる教授者も多いかと思います。特に成人学習の場合、モチベーションコントロールが学習の成否を大きく左右するために重要な問題です。
しかしまずは、それが本当にモチベーションの問題なのか?の判定が必要です。
以下のフローで本当にモチベーションが原因なのかどうかを判定できます。
「必要な知識を与えればできる/やるのか?」
Yes→知識不足が原因
No→「誰かの援助や道具があればできる/やるのか?」
Yes→技能の不足や環境が原因
No→モチベーションの問題
もし知識や技能の不足、環境が問題なのであれば、先にそちらを解決しましょう。
ほめて育てる?叱って育てる?
『インストラクショナルデザイン―教師のためのルールブック』では、明確に「ほめて育てる」路線を推奨しています。
好ましい要素(好子)をエサに望ましい行動を伸ばすことを「強化」、嫌な要素(嫌子)によってダメな行動を潰すことを「弱化」と言います。これはよく使われる言葉なので知っているひとも多いかと思います。
さて、この「好子」と「嫌子」には恐ろしい性質があります。それは
「それが発生した時、関連性を無視してその場と直前の要素すべてに作用する」
というものです。
つまり、例えば部下が作成した書類にミスがあったとして、それを怒鳴ったりすると(嫌子発生)、その効果は因果関係や関連性を無視して
- 書類作成という行為そのもの
- 怒鳴っている上司
- 怒鳴られている空間である職場
などに無差別に作用してしまいます。
したがって書類作成そのものが嫌になったり、職場自体が嫌になったり、上司が嫌いになったりして仕事に対するモチベーションが下がってしまいます。
なので「叱って育てる(弱化)」は副作用があまりにも大きく、「ほめて育てる(強化)」が推奨されます。
他にもある恐ろしい性質は
といったものです。
明確な評価基準を知らせず、褒めたり叱ったりをバラついて行うと、好ましくない行動がより強力に強化されてしまいます。なので
- 褒める/叱る基準を明示し、必ずその通りに褒めたり叱ったりする
- 対象となる行動が発生したら、即座に褒める
- 一度に行動を変えさせようとはせず、少しずつ細かく段階を上げて行動を修正していく
という方法が有効です。
また、当然ですが何が好子/嫌子となるかはひとによって異なります。事前に学習者の学習目標、性格や嗜好、価値観といった情報を調べ、そのひとにとって効果的かつコストパフォーマンスがよいものを好子にしましょう。
悪用厳禁!どうしても「わからせたい」ひとのためのブックガイド
この「好子/嫌子の関連性無視」という性質はほんまかいな?と思うかもしれませんが、実は人間は生まれつき物事の関連性を合理的に理解するようにはできていません。下記の本がそれを嫌というほど教えてくれます。
ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?
- 作者: ダニエル・カーネマン,友野典男(解説),村井章子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/11/22
- メディア: 単行本
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ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?
- 作者: ダニエル・カーネマン,友野典男(解説),村井章子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/11/22
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 8回
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人間が直感で理解できるのは、精々「Aの後でBが起こった→AとBは関係あるんだ!」とか「Aの近くでBが起こった→AとBは(ry」みたいなレベルのもので、因果関係と相関関係は異なって〜などの高次の関連性理解はある程度の知的訓練でしか身につけられません。知的生命体が聞いて呆れますね☆
この人間の性質を逆手にとって悪用(?)すれば、任意の物事を「理解」させることができます。
下記の本はそのような人間の性質とその利用について細かく説明しています。より前提知識が不要なように書かれているので、『ファスト&スロー』は難しすぎる!というひとにもおススメです。
人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)
- 作者: トーマスギロビッチ,Thomas Gilovich,守一雄,守秀子
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 1993/06
- メディア: 単行本
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- 作者: ロバート・B・チャルディーニ,社会行動研究会
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2007/09/14
- メディア: 単行本
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「いやいやそこまでマッドな話じゃなくても……ただもうちょっと分かりやすい資料や参考書を作りたいだけなんだ」というご要望でしたか、それは大変失礼いたしました。
それでしたら下記の本がご参考になるはずです。時間のない方は上の方から読んでいってください。下の方の本は理論的というかマニアック路線です。
「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール (ブルーバックス)
- 作者: 藤沢晃治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/03/19
- メディア: 新書
- 購入: 22人 クリック: 374回
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- 作者: Robin Williams,吉川典秀
- 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
- 発売日: 2008/11/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 58人 クリック: 1,019回
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それは「情報」ではない。―無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン
- 作者: リチャード・S.ワーマン,金井哲夫
- 出版社/メーカー: エムディエヌコーポレーション
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 27回
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アンビエント・ファインダビリティ ―ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅
- 作者: Peter Morville,浅野紀予
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2006/04/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「わかる」ってどういうこと? ※2013/06/04追記
「わかっている」とは具体的に何を指すのか?について関連Tweetをまとめます。(承前: aliliputちゃんは学校の先生でもあります)
「理論は分かったけれど具体的にどう実践すればいいのか分からないんですよ!!」って奴、お前理論わかってないよ。
しかしこの「理論がわかって*いるのに*できない」と考えるひとはいい大人でも結構多いのだ。こう思ってしまうと自分ができない原因を他所に求めるから、どんどん学習の隘路に入りこんでこじらせてしまう。
「理論がわかって*いるのに*できない」を「理論がわかって*ないから*できない」に認識が改まるだけで、落ち着いて腰を据えて勉強できるようになる。ある程度長期の学習期間をとれるなら、まずそこから変えるとよい。
「理論がわかっている」の実態は単にその理屈を暗記しているか、さもなくばその記述をなんとなく違和感なく受け入れられている、だったりするひとは意外と多い。でも「わかっている」と言うからには、その理を使って何かができないとだめなんだよ。
ちなみに前受け持っていたクラスでは、そういう「わからない」子はクラス全体の理解の底上げに大変重要な役割を果たしてくれた。「わからない」子に対して「わかっているつもり」の子に説明させる。すると本当は分かっていないことがどんどん露呈する。
「わからない」子が次々繰り出す境界ギリギリの質問に「わかっているつもり」の子は答えられない。適当な解釈を述べると、クラスの他の子たちが「それは違うんじゃない?」「僕はこう思ってた」と言い出して議論が始まる。こうなると教師は見ているだけw
「わかっているつもり」の子も苦しんでいる。自分は本当は分かっていないのに、一体何が分かっていないのかが分からないからだ。「わからない」子はそういう苦しみの解決に手を貸してあげられる。
以上、ご不明点がございましたらお気軽にお尋ねください。全ての教えるひとにご参考になりましたら幸いです!