大学での授業の権利は誰にあるのか -MOOCをめぐる議論
「The Chronicle of Higher Education」で、無料のオンライン大学授業が学問の自由を脅かすというAAUPの主張が報道されていました。
興味深い問題ですので、以下に抄訳と意見を記述します。
AAUPはMOOCを教授陣の知的資産の新たな脅威になるとみなしている
(原文: "AAUP Sees MOOCs as Spawning New Threats to Professors' Intellectual Property")
大学は教員が行った授業でMOOCにあるものの所有権を主張し、教員の著作権や学問の自由を広く脅かしていると前AAUP*1会長のカーリー・ネルソンが月例会で主張した。
「もし知的財産をめぐる闘いに敗北したら、大学教授になることは専門家としてのキャリアや専門家としてのアイデンティティを意味しなくなる。その代わりに、自分たちはサービス業界で働いていると気付くことになる」
AAUPは大学教授たちに知的財産権を守るためのキャンペーンを計画している。知的財産を取り扱うための情報を配信するWEBサイトを立ち上げ、契約時に利用できる定型文例が記載されたハンドブックを出版する予定だ。
専門家としての著作権の防衛
AAUPは長年、大学教員が生みだしたあらゆる知的財産の権利を所有する権利に注目してきた。しかし専門家の権利を防衛する試みはまだ始まったばかりだ。ネルソン氏は、大学は知的財産権を管理しようとするが、大学教員の授業や著作に関する所有権は置き去りにしていると主張する。
MOOCにおいては、大学は教員たちの授業に対する所有権を主張するが、では書籍などの他の学問的成果物に対して所有権を主張しないのはなぜなのか。
ネルソン氏は「大学に対しては授業の使用権を与えるだけで十分であり、所有権を与える必要はない。高等教育機関が授業のアップデートや修正の権利を主張すると、授業を行った人間の学問的な自由が脅かされる。金銭ではなく主義の問題であり、あらゆる創作物に対する権利の問題だ」と述べる。
*1:"American Association of University Professors"; アメリカ大学教授連合
授業の権利はどう扱われるべきか
個人的にはMOOCには賛成です。大学の授業を無料でいつでも受けられるなんて素晴らしいし、またアーカイブ構築の面からも好ましいと思っています。
しかし授業もまた著作物などと同じ知的財産として扱われるべきだという意見ももっともだと思います。
大学側がMOOCで公開している授業のアップデートするよう教授者に要請するかもしれない、という観点は目新しいと思いました。それがもし既に退職した大学からの要請だったりすると実に嫌ですね。
反対に、自分ではもう古くなって取り下げたいと思っている授業が延々と公開され続けるのも嫌だと思います。
(自分で一度オンラインメディアに寄稿したものの、内容が古くなってもう取り下げたい/修正したいと思っているような文書をどう取り扱うべきか、という問題にもこのところ関心がありますが、それはまた別のお話)
方法としてはMOOCに授業を公開したら教授者には別途使用料を支払う、また公開期限を定めて公開するなどが考えられます。しかしネルソン氏が「金銭ではなく主義の問題」と述べている通り、授業を知的財産として扱うというパラダイムが構築されないと、運用をいくら論じても本末転倒でしょう。