【追記あり】特定秘密保護法案に賛成することにした
※タイトルは釣りです(逃
本エントリはyuki_o氏の
「特定秘密保護法案に反対することにした」
の便乗エントリです。
わたし自身は同法案に対して賛成・反対以前に分からないことがあるので、そのことを法学分野の方にご教示頂ければと思い本エントリを投稿する次第です。
さてひとに教えを請うには自分でここまで調べたと示すのが学徒のならいです。
以下、参照している特定秘密保護法案の全文はこちらです
衆議院「第一八五回閣第九号 特定秘密の保護に関する法律案」
衆議院「特定秘密の保護に関する法律案に対する修正案」
ただ上記の2つは超絶文字組みが読みにくいので、こちらにはてなブログの美しいテンプレートで書きなおした物を置いておきました。ご利用は自己責任で。
「政府の都合で何でもかんでも恣意的に秘密にできるじゃないか!」
特定秘密に指定できるものは以下の通りです。(修正案反映済み)
別表(第三条、第五条−第九条関係)
一 防衛に関する事項
イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究
ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報
ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
ニ 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究
ホ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量
ヘ 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
ト 防衛の用に供する暗号
チ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法
リ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
ヌ 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途(ヘに掲げるものを除く。)
二 外交に関する事項
イ 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの
ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針(第一号イ若しくはニ、第三号イ又は第四号イに掲げるものを除く。)
ハ 安全保障に関し収集した国民の生命及び身体の保護、領域の保全若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報又は条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報(第一号ロ、第三号ロ又は第四号ロに掲げるものを除く。)
ニ ハに掲げる情報の収集整理又はその能力
ホ 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号
三 特定有害活動の防止に関する事項
イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
ロ 特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号
四 テロリズムの防止に関する事項
イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
ロ テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又はは外国の政府若しくは国際機関からの情報
ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
ニ テロリズムの防止の用に供する暗号
これ、修正案において「又は」が「若しくは」に改められているのですが、なにか意味があるのでしょうか?
※追記
複数の方からご教示頂きましたが、結合されている選択肢のレイヤーに違いがあるのですね。勉強になりました。
また、特定秘密の指定および保護期間の延長に関しては内閣が細かくチェックし、有識者の意見も取り入れるべきとされています。特定秘密の指定において監査機関がない、との意見はありますが、本法においては内閣がその役割を果たすことになっています。なお、特定秘密自体は内閣以外の行政機関でも指定が可能です。
※追記
内閣には他の業務もあって忙しく、充分なチェック体制が運用上可能なのかという点も問題視されており、確かにその点は課題ですね。実際に特定秘密に指定される情報の量によっては、監査業務に専念する機関はあった方がいいかもしれません。
なお「内閣もその他行政機関も同じ行政機関で身内なんだから、身内チェックで甘くなるだろ?」というご指摘ですが、それなら第三者監査機関を置く際は内閣の下に置く訳にはいかないですね。最高裁判所の下にでも置くべきかと思います。
「何が特定秘密に指定されているか分からないのに、うっかり知ったらどうするんだ!」
第三条 2 行政機関の長は、前項の規定による指定をしたときは、政令で定めるところにより指定に関する記録を作成するとともに、当該指定に係る特定秘密の範囲を明らかにするため、特定秘密である情報について、次の各号のいずれかに掲げる措置を講ずるものとする。
一 政令で定めるところにより、特定秘密である情報を記録する文書、図画、電磁的記録若しくは物件又は当該情報を化体する物件に特定秘密の表示をすること。
特定秘密の情報媒体には「特定秘密ですよ〜」との表示がされるので、うっかり知ってしまう恐れはなさそうです。気をつけろ、特定秘密印だ!
「無期限に秘密のままだなんて知る権利への冒涜だ!」
第四条 行政機関の長は、指定をするときは、当該指定の日から起算して五年を超えない範囲内においてその有効期間を定めるものとする。
デフォルトの有効期限は5年です。
第四条 2 行政機関の長は、指定の有効期間(この項の規定により延長した有効期間を含む。)が満了する時において、当該指定をした情報が前条第一項に規定する要件を満たすときは、政令で定めるところにより、五年を超えない範囲内においてその有効期間を延長するものとする。
第四条 3(修正案) 指定の有効期間は、通じて三十年を超えることができない。
延長はできますが、30年が最大です。
第四条 4(修正案) 前項の規定にかかわらず、政府の有するその諸活動を国民に説明する責務を全うする観点に立っても、なお指定に係る情報を公にしないことが現に我が国及び国民の安全を確保するためにやむを得ないものであることについて、その理由を示して、内閣の承認を得た場合(行政機関が会計検査院であるときを除く。)は、行政機関の長は、当該指定の有効期間を、通じて三十年を超えて延長することができる。ただし、次の各号に掲げる事項に関する情報を除き、指定の有効期間は、通じて六十年を超えることができない。
一 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む。別表第一号において同じ。)
二 現に行われている外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下同じ。)の政府又は国際機関との交渉に不利益を及ぼすおそれのある情報
三 情報収集活動の手法又は能力
四 人的情報源に関する情報
五 暗号
六 外国の政府又は国際機関から六十年を超えて指定を行うことを条件に提供された情報
七 前各号に掲げる事項に関する情報に準ずるもので政令で定める重要な情報
本当の本当に有事の際はここまで延長できるともあります。
これ、結局30年が最大なのかそうでないのか解釈が割れるところだと思いますが、なぜわざわざ第三項と第四項を分けているのか分からないです。法律においてはこういう書き方は一般的なのでしょうか?その意図するところは何でしょうか。
※追記
「どうしてもやむを得ない例外中の例外」を表現するために法律ではこういう書き方をすることもあるそうです。でもどうしてもやむを得ない場合とは結局なんなのか……具体例を条文に書き込んでしまう訳にはいかないとは思いますが、日本語の難しさを感じます。
「特定秘密の指定・運用状況が分からなければ国民が検証する余地もない!」
第十九条(修正案) 政府は、毎年、前条第三項の意見を付して、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の状況について国会に報告するとともに、公表するものとする。
特定秘密の内容そのものは公表されないのでしょうが、指定状況は毎年公表されるようです。件数だけが淡々と報告される感じなのでしょうか……気になります。
「特定秘密に関する文書は永遠に闇の中だ!あとから検証できない!」
第四条 6(修正案) 行政機関の長は、第四項の内閣の承認が得られなかったときは、公文書等の管理に関する法律第八条第一項の規定にかかわらず、当該指定に係る情報が記録された行政文書ファイル等の保存期間の満了とともに、これを国立公文書館等に移管しなければならない。
少なくともこのケースに該当する事項に関しては関係資料は公文書館に保管されるようです。
「公文書等の管理に関する法律」を見ましても、今回の特定秘密関連文書が例外となる根拠は見受けられません。したがって特定秘密に関する文書は指定解除後に既存の規定に従って公文書館に保管されると考えて良いと思います。この解釈は合っていますでしょうか?
「ジャーナリストが逮捕される!言論の自由の侵害だ!」
第二十二条(修正案) 2 出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。
どうやら法令違反でない通常の取材は正当業務行為として認められるようです。法令違反はどの道アウトですね。
「偶然特定秘密を知りえた無辜の市民が危険に晒される!」
別表を見る限り、無辜の市民が偶然特定秘密を知りえるのはかなり困難だと思います。まず、特定秘密は
第三条 行政機関の長は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、
とあるので、既に公表されている情報は含まれません。
図書館は出版済みの情報を扱う機関である以上、yuki_o氏の危惧するような「図書館員が偶然特定秘密を知り、逮捕・投獄される」状況の生起はかなり考えにくいです。あえてあり得るとしたらNDLのひとはそういうことがあるかもしれません……?
後は軍事関連の研究者の方々でしょうか。でも彼らは既に充分センシティブな(お察し)扱いを受けております。
「特定秘密保護法違反の教唆や扇動だけでも罰則を受けるんだから乱用が懸念される!」
第二十五条(修正案) 第二十三条第一項又は前条第一項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者は、五年以下の懲役に処する。
これのことですね。
現行の刑法第六十一条においても
第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
教唆犯は罰されることになっています。
もし教唆の処罰が拡大解釈による不当逮捕の温床であるなら同条文も問題にされなければいけませんが、現状でこの第六十一条の濫用が頻発しているとかそういう事情があるのでしょうか?
そうでなければ、特にこの特定秘密保護法案だけの「教唆」を問題視する理由にはならないかなと思います。
※追記
コメント欄でこの場合の「遂行」は実行を伴わない未遂の場合をも指し、拡大解釈の要因になり得るとのご指摘をいただきました。しかし同様の記述は国家公務員法にあるので、この箇所を問題視するなら国家公務員法をも改正せねばならないとのご指摘もあり、難しいところです。
一般に新法案内の語用は既存の法律を踏襲して(≒コピペして)いるケースが多く、新法を問題視するなら旧法も変えるべきだという問題が発生するようです。こういうのライブラリにならないのかなぁ……。