図書館学徒未満

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民間企業が公共案件から得たいものは金銭的利益とはかぎらない

指定管理者に反対する人のロジックは

「民間企業は利益を優先する」
→「不当にサービスへのコストを削り、運営費用を下げて受託費を浮かせ、利益を出そうとする」
→「図書館サービスが劣化する」

といったものだと思いますが、失礼ながらそれはあまりにも民間企業というものが分かっていないといわざるを得ません(^^;; せっかく取れた公共案件でもしそんなことをする業者がいたら、あまりにもバカです。


建設業における一昔前の談合・官民癒着の全盛時代ならともかく、現代において一般に民間企業が公共系案件を受けるときの目的は金銭的利益とはかぎりません。というかそもそも、直接的な金銭的利益のために公共案件を受ける業者は今はほとんどいないでしょう。おそらく、現在公共案件を受けている業者のほとんどが収支トントンか、赤字でしょう*1

例外もありますが、厳しい予算で注文も厳しい公共団体は決して民間企業の「よいお客様」ではありません。民間企業相手の方が、はるかに話も通じるし予算もケチられないことが多いです。


それでも、民間業者にとっては公共案件はたとえ赤字でも、のどから手が出るほど欲しいものだったりします。

公共案件受託業者というステータス

体力があり、これから更なる成長をめざす若い企業にとって「公共案件」はひとつの夢というか、マイルストーンです。若い企業の掲げる目標の一つに「上場」がありますが、「公共案件の受託」にもそういうところがあります。
公共案件、特に大規模自治体のようなビッグネーム、欲を言えば「国」からの仕事を請けられると、企業としての信頼度が飛躍的に高まり、その宣伝効果たるや絶大なものがあります。


知り合いの社長さんで最近、国からの案件を受けられた会社さんがあったのですが、「文字通り客層がガラっと変わった、すごくいいお客さんがたくさん来るようになった」とコメントしておられました。そんな話はめずらしくありません。特に信頼性を大切にするような業界、ブランド力が大事な業界では、公共案件はぜひとも受けたいものなのです*2

ブランド力の維持

すでに絶大なブランド力を持っている大企業であったとしても、そのブランド力を維持し続けるために赤字の公共案件を受け続けるところも珍しくありません。ブランド力の維持、マーケティングにおける防衛戦というものは、外で見ているよりもかなりお金がかかるものです。同じお金なら、広告宣伝費に突っ込むよりもたとえば「○○省御用達」みたいなポジションを確保し続けた方がはるかに効果があります。


またそこまでの意図がなくとも、たとえばメセナ的な観点から利益の出ない公共事業を受ける企業もありますし、ネーミングライツ的な効果を期待して受ける場合もあります。どちらも、ブランド力の維持のために公共事業を受けています。

抱き合わせ商法・転売

これはどちらかというと派生的なメリットですが、運用系の案件を受託して、物品やソフトウェアの調達にまである程度の発言権を獲得できた場合、ある種の抱き合わせ商法的なモノの売り方ができるようになります。


たとえば、F社*3が図書館システムの導入・保守を受託したとして、ついでにF社製のパソコンやリモート複合機を数十台ガガッと買ってもらう、ということができるようになります。そうすると図書館システムそのものでは赤字でも、ハードウェアの販売で回収できる……かもしれません。でも図書館ではハードウェアの台数が少なく、あんまり回収できないことが多そうです。


また、似たような案件を別の公共団体から受託した場合、別の団体のために作ったシステムをほぼそのままコピーしてさらに別の団体に納品することもできる可能性があります。もしそれが成功すると、事実上システム開発費が半額になるので、個々の案件の報酬自体は低かったとしても利益を出せます。ただ大抵の場合は相応のカスタマイズが必要であり、なかなかうまくいかないようです。


おそらくですが、TRCは図書館の運営委託業務を受けまくっており、ある程度標準的な図書館の運営ノウハウを貯めていると思います。ですから、経験の少ない他企業よりもはるかに少ないコストで図書館の運営を受託でき、利益を出せているのかもしれません。そしてその運営委託業務を受けまくっている実績がブランド力の向上につながり、さらなる案件受託につながる、というサイクルができているのでしょうね。

*1:わたしの知るどこぞの有名業者は年間2億ほどの赤字を出しながら某公共団体の案件を受託し続けています。現実はこんなものです。

*2:CCCによる指定管理で話題となった武雄市ですが、CCCの社歴を見る限りそろそろ小さくても公共案件が欲しかった頃なんだろうなぁと推察します。

*3:イニシャルに他意はないです