図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

コミュニティの機能から考える図書館の「貢献」の在り方




みたいなことを書いておりましたら、
「コミュニティに貢献するとはどういうことかいまいち分からない」
というお言葉を頂きました。確かに非常に抽象的で曖昧な概念だと思いますので、「コミュニティへの貢献って具体的にどういうことだろう?」と自分なりに考えてみました。


※以下、L1GPとは全く関係ありません!


「国家」「都市」「学校」「企業」「mixiコミュ」など、世の中には様々な種類のコミュニティが存在する訳ですが、ある程度の期間自立して存続するコミュニティの持つ基本的な機能は大きく以下の3つがあります。

  • コミュニティは構成員の安全を守る
  • コミュニティは目的を達成するべく努める
  • コミュニティは自らの活動に必要なリソースを調達する

コミュニティは構成員の安全を守る

一番基本的ではありますが一番忘れられがちな役割、構成員の安全確保です。国家は警察や軍隊によって国民の安全を確保していますし、企業は警備員や弁護士、リスクコンサルタントなどを頼んで事故を未然に防ぎ不測の事態に備えています。最近は学校の安全についても関心が高まり、学校で不審者への対応訓練を行ったりしていますね。

コミュニティの安全を脅かす原因は他国や不審者ばかりでもありません。災害や疫病によっても安全が損なわれます。有名な例ですが、米国国立医学図書館ではオンラインで災害情報やインフルエンザの情報等を配信し、国民の安全確保に努めていますね。

そしてもちろん、安全を脅かす存在は外部から来るとも限らない訳です。

図書館でいじめをなくせるか

先日、小学生がいじめを苦に自殺する大変痛ましい事件がありました。あのような事例は氷山の一角で、子ども同士のいじめから大人の世界に横行するハラスメントまで、多くのコミュニティが構成員同士がお互いの安全を脅かすという深刻な問題に悩まされています。


構成員の安全を守るために、図書館には何かできることはないのでしょうか?


わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる「わが子がイジメられてるらしいと思った親が最初にしたこと」
上記記事はいじめ対策の関連書籍を紹介していますが、「書籍を提供する」という図書館の基礎的な業務だけでもこのくらいのいじめ対策支援ができるという好例です。

当然、図書館だけでいじめ問題が解決できる訳ではありません。しかしコミュニティの重要な一機能を担う部門として、図書館には何かできることがあるはずです。

コミュニティは目的を達成するべく努める

コミュニティの中にはある目的の元に組織され、自発的な意志によって参画したメンバーによって構成される類のものがあります。企業や大学はそれぞれ経済活動や研究、教育などといった目的があり、その目的に賛同し自ら望んで参画したメンバーによって構成されるコミュニティです(少なくとも建前上は)。
一方、国家や地方自治体などは必ずしも明確な目的の元に組織されてはおらず、構成員も自ら望んで参画した訳ではありません。しかし何の目的もないかというとそうではなく、こういったコミュニティは「それぞれの構成員がより安全でより幸福に生活できるようにする」ことを目的としています。
どちらのタイプのコミュニティにしろ、

  • コミュニティはコミュニティ自身の目的を持っている
  • コミュニティに属する構成員もまた自分自身の目的を持っている

と言えます。

これらの目的は達成可能なものも達成不可能なものもありますが、各コミュニティや構成員は目的を達成すべく日々活動をしています。

コミュニティのための情報提供とは

このような、ある目的を持ち活動している人の支援はまさに図書館のお家芸でしょう。図書館は利用者の目的に合致した情報を提供することで、利用者の目的遂行に必要な能力を高めることができます。こうした個々の利用者に対する支援の重要性や在り方についてはもう十分な論がありますし、図書館関係者の皆様も日々お考えを巡らせていることと思います。


では、コミュニティのために行う支援は個々の利用者に対して行う支援とどう異なるのでしょうか?


ある目的の元組織されたコミュニティでは、コミュニティの思惑と利用者の思惑はかなりの部分が一致します。企業は経済活動を通じてより効率的に利潤を獲得することを目的としていますが、構成員である従業員も多くがより効率的に業務をこなし会社の利潤増大に貢献することで、自らの技能獲得、地位向上や給与の増額をしたいと考えているでしょう。この場合、図書館は経済活動や業務効率の向上、研究開発等をたすけることで、コミュニティと構成員両方に同時に貢献できます。

これが「市」などですと少し話が難しくなってきます。市としては少子化改善のため小児のいる家族により豊富な行政サービスを提供したいと考えていたとしても、利用者は老人かもしれないからです。また市としては、環境保全や景観の保全改善に力を入れたいと考えていたとしても、個々の利用者は高層オフィスビルを建設してどんどんテナントを呼び込みお金を稼ぎたいと思っているかもしれません。

利用者個々人にできる限りのサービスを提供するのは図書館として当然の姿勢です。しかし、リソースやポリシーの限界が利用者にとって十分なサービスを許さないことがあるでしょう。
全ての利用者を完全に満足させるような図書館は存在しませんし、そのような館づくりを目指すべきでないとも思います。では、どのような館を志向するべきなのか?と考える大きな判断基準の一つが、その館が存在するコミュニティの持つ目的なのではないでしょうか。
如何なる図書館も、その図書館を支えるコミュニティなくしては存在できません。そのコミュニティの繁栄・発展は図書館自身の発展の必要条件です。コミュニティが自らの目的を達成しより発展していくために、図書館は何ができるのか?という視点は常に持ち続けるべきだと思います。

コミュニティは自らの活動に必要なリソースを調達する

リソースと言うとまず「ヒト・モノ・カネ」が出てきますが、ここに更に「情報・時間・場所」も付け加えたいと思います。
コミュニティはそれぞれ、例えは税金や授業料を徴収したり、何かを販売して利益を得たり、そのお金で必要なものを購入したり誰かを雇用したり、またはボランティアや寄付を募ったりなどの方法で、活動を行うために必要なリソースを調達しています。

図書館自らがお金を稼ぐことはほとんどできません。しかし図書館は情報提供の専門機関ですので、コミュニティの運営・活動・問題解決に必要な情報を的確に提供することで大きく貢献できるはずです。それらの情報は「時間」をも節約してくれるでしょう。
また、場所としての図書館やヒトとヒトをつなぐ機関としての図書館を見直す動きがありますが、これもコミュニティのリソース調達に大いに貢献する機能であると言えます。

リソース調達機関としての図書館のアドバンテージは

  • 情報を豊富に収集できる
  • 必要な情報を適切に提供できる
  • 不特定多数の人にアプローチできる
  • 外部機関との日常的な連携を行っている

部分にあると思います。

こうした強みを生かし、コミュニティのためのリソース調達という観点から図書館活動を見直すと面白いのではないでしょうか。