図書館よ、調査をせよ! -----実務における利用調査のオハナシ
本著は全編通じて浦安図書館の興味深い事例と氏の強い主張が述べられており、非常に示唆に富む本ではありますが、ここで特筆したい点として、データに基づいて論を進めるところを挙げます。
特に第7章「公共図書館は出版界の敵にあらず」では
- 「浦安市立図書館における貸し出し図書受入れ年度比」で、図書館が新刊書ばかり受け入れている訳ではないこと
- 新刊書の貸出割合を引き、図書館が新刊書ばかり貸している訳ではないこと
- 書店の売り上げ推移と図書館の貸出件数推移を比較し、図書館が書店の売り上げを圧迫していないこと
- 利用者アンケートから、図書館と書店の使い分けの実態を明らかにしていること
と、一つ一つデータを引き、林望氏らの主張を論駁しています。
確かな経験と高い見識、そして客観的なデータに裏打ちされた常世田氏の主張は緻密で、大きな説得力があります。
浦安図書館では綿密な利用調査・分析を行っており、その実態は第10章「公共図書館とマーケティング」で紹介されています。毎月、独自に集計している対象項目だけでも
- 貸出(館別、資料別、平均、累計など)
- 登録(館別、住居別など)
- リクエスト・サービス(資料別、相互貸借数など)
- 集会事業
- アウトリサーチ・サービス(サービス別、参加者数など)
- 書庫利用
- ハンディキャップ・サービス(サービス別)
- 病院サービス(サービス別)
- 資料案内
- レファレンス・サービス
(前掲書 pp.237-pp.238)
となっており、毎月それらを分析して他の月と比較し、サービスを検証するという徹底振りです。まさにちょっとした企業並みです。
こういう確かなデータのバックボーンがあるから、浦安図書館は自分たちの「やるべきこと」を把握でき、それに向かって行動することができるのです。
なお、これらのデータは年度別にまとめられ、浦安図書館のWebサイト上から閲覧できます。平成19年度分はこちらからどうぞ。110ページに及ぶ、他の公共図書館の追随を許さぬ大作ですw
平成19年度図書館概要(pdf)
統計データもさることながら、それぞれの分析に注目していただきたいと思います。浦安図書館がこれらのデータから何を読み取り、それに基づいて具体的にどう行動してきたかが記されており、大変興味深いです。バックナンバーは見られないのかな……。*1
*1:ちなみにこちらでは 貸出履歴の利用についての疑問(一歩間違うと絶望) - かたつむりは電子図書館の夢をみるか で話題になっているような利用者の属性による分析を行っている様子は見受けられませんでした。本の分野別貸出統計はとっているようなので、それで実用上はイイ線いっているのかもしれません。