図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

【悲報】amazonの書誌情報管理がマジクソな件について

Amazonで『不思議の国のアリス』を買おうとします

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Kindle版があるのでクリックします

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!!!!????


結論から言おう。Amazonルイス・キャロル原作の『不思議の国のアリス』というタイトルの本なら絵本と文庫本はおろか、訳者が違おうが出版社が違おうが「全部同じ本」として扱っている。


もうちょっと細かい話をする。Amazonは商品管理においてASINコードと言う独自の商品管理番号を使用しており、このASINコードは全世界のAmazonで共通なのだが、それが本の場合はその本のISBN10桁をそのままASINコードとして使用している。それで、角川文庫版の『不思議の国のアリス』と、たとえば「単行本」をクリックしたら出てくる集英社版の『不思議の国のアリス』は、それぞれ "4042118038" と "4082740252" という異なるISBN==ASINコードが振られており、厳密には異なる本として登録されている。ただ、利用者に提示するインタフェースとしてはあくまで「同じ本の判型違い」扱いなのだ。


ある本とある本が同じ、とはどういう意味だろうか。図書館情報学分野にはFRBR(書誌レコードの機能要件)という細かい話もあるのだが、基本的に学術分野では「著者」「出版社」「出版年」「書名」が同一ならば同じ本として扱われる。また、商業出版されている本ならばISBNというものが割り振られており、ISBNが同一ならば事実上同じ本と見なされる。とは言っても、ISBNは使いまわしされることもあるので完全にユニークとは言い難い部分もあるのだけれど。
とにかく、ある本を同定するために必要な情報を「書誌情報」という。これがはっきりしないと、誰かがブログで引用していた面白い本をAmazonや図書館で探すことができない。とはいっても、Amazonにこんなことをされたのでは書誌情報が分かったところで「同じ本」を簡単に入手できないのだけれど。


例え書誌情報の一部が異なっても、実用上は「同じ本」とされてもあまり問題ないものはある。たとえば京極夏彦姑獲鳥の夏』には講談社ノベルス版と講談社文庫版がある。講談社文庫版の方が後から出版されたために出版年度が異なるが、ほとんどの場合は「同じ本」扱いされてもそれほど困らないだろう。判型が異なるとページ数が変わってくるので、引用文献としてページ数を指定する必要がある場合は「違う本」とするべきなんだが。


ただ『不思議の国のアリス』は原著者こそ一人なものの、異なる多くの挿絵画家によって挿絵が書かれており、異なる多くの翻訳者によって翻訳され、異なる多くの出版社から異なる多くの判型によって出版されている。いくらなんでも、子ども向けアニメ絵本と柳瀬尚紀訳のアリスを「同じ本」として扱うのは無理がありすぎるのではないか。


Amazonはこの調子で異なるアリスのレビューも全部ひとまとめにブチこんでいるため、たとえば以下のように大変な風評被害が発生している。

★★★★★ スラスラ読める「アリス」

 今まで「不思議の国のアリス」は誰の訳を読んでも何を書いてあるのかまったく分からなかったのですが、この河合祥一郎氏の訳は面白いです。ちゃんと小説として成り立っております。さぞ研究なされたのでしょう。
 懐中時計を持ったウサギを追いかけて、穴に落ちて、いろんな目に遭って…次から次へ巻き起こる珍事件怪事件、私にはこれを楽しめる日は来ないのではないかと思っていましたし、同じ思いの人もたくさんおられることでしょう。でも楽しく読みたいという気持ちはこれで叶いました。
 アリスの世界観やテニエルの挿絵は好きだけど、文章が辛かったアナタ、ぜひ角川文庫のアリスご一読を。

このレビューが表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリスだ。

★★★★★ 希少な本に出会えました, 2014/10/22

このお話をまど・みちおさんの文章で楽しむ事ができるなんて、と探しました。
状態もきれいで、充分鑑賞に堪えます。
お安く手に入れられて、助かりました。
ありがとうございました。

このレビューも表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリス。しかも新品。

★☆☆☆☆ CDが欠けていた, 2014/10/6

中古を買ったら、CDがついていなかった。
CDが欠けてるならCD無しと、説明をちゃんとつけるべきだ。

このレビューも表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリスで、当然のことながら元々CDはついていない。


どのレビューも詳細情報を見ればどの「アリス」に対するものなのかが特定できるのだが、そもそも一緒くたに表示されているのがおかしい。関係ないレビューをつけられて訳者や出版社のひとは困惑するのではないだろうか?


また、割とどうしようもないのが以下のような翻訳書の扱いだ。

欲しい本

     ↓
Kindle版で降ってくる本

見ての通り原著だ。翻訳書の方をKindle化してほしくとも、Kindle版が既に登録されている扱いのため「このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください」のリンクが表示されない。このままでは詰みだ。未来永劫この本はKindleで読めない。


なお、こういった取扱いで個人的に一番イラッときた点は「翻訳者の無視」だ。もちろんある著作の誕生における最大の貢献者は著者自身だろうが、翻訳者もまたその言語におけるその著作の命を吹き込んだ、二人目の著者とも言うべき存在だ。翻訳は誰がやっても同じではない。その訳者だからこそ吹き込まれた本の命というものがあるだろう。その存在がAmazonでは完全に無視され、挙句の果てはこの扱いだ。


これはどちらもAmazon平田昭吾氏の著者ページだ。『不思議の国のアリス』の、河合祥一朗氏と矢川澄子氏の訳が混じっている。


Amazonさん、さすがにこの書誌情報の取り扱いはメチャクチャではないですか?もうちょっとなんとかなりませんか?


(※追記※)

id:blueboy 一般的な現象ではない。パソコンで確認したら、すべて区別されている。http://j.mp/1B0Yssm http://j.mp/1vo6mFG http://j.mp/1Bg1dEm 特定のマシン環境(Kindle?)でのみ発生するのでは? 悪口を書くなら、もっと調査してから。

本稿で扱った『不思議の国のアリス』はこちら( http://www.amazon.co.jp/dp/4042118038 )のものです。PCで見ようがAndroidで見ようが結果は同じです。
例示された『不思議の国のアリス』では、まず「不思議の国のアリス・オリジナル」は書名が異なるため、別の本として認識されています。また、岩波少年文庫版並びに新書館版については、これらの出版社の出版物について同じ現象が見受けられないため、おそらく出版社側の申し立てにより「別の本」として扱われていのではないかと思われます。


これは推測ですが、Amazonは書名と原著者、あるいは著者のうち一人が一致するならばデフォルトで「同じ本」として扱うのだと思います。それに疑義があれば、申し立てによりその紐付けを解除するオプトアウト式なのではないかなと。

関連書籍を自動的に検出し提示してくれる機能は、Amazonを現在の地位まで押し上げた大きな特徴であり、ユーザーへの恩恵も多いと思います。ただそれならそれで「関連書籍」として提示すればよいだけで、あたかも同じ本の判型違いであるかのように表示するやり方は誤購入にもつながり、よい方法ではないと思います。おそらく、全部の出版社がこの現象をちゃんと認識している訳でもないでしょう。