図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

図書館学徒が認める最高のオンライン書店はここだ!!

※タイトルは釣りであり、発言は個人の感想です。
※真打は一番最後です。


前回の「【悲報】amazonの書誌情報管理がマジクソな件について」は多くの方にお読みいただき、図書館クラスタ以外の方々からも様々なご感想を頂いた。id:librarius_I 先生には「【報告】「【悲報】amazonの書誌情報管理がマジクソな件について 」を使って授業をやってみた。(追記あり)」で教材としてご使用いただいた結果を教えてもらい、学生さんの反応を興味深く拝読した。
図書館クラスタでないひとたちが書誌情報書誌情報とつぶやいてくださる光景には思わず嬉し涙が出たが、中でも気になったご意見が「Amazon営利企業なのだから、図書館のような厳格な書誌情報管理を求めても仕方がない」というものだ。


実のところ、書誌情報の管理……というか「同じ本」の同定はどこまで厳密にやるべきなのか、という問題には、究極的には合意はとれない。FRBRでも細かい分類がなされているが、古書や博物館の世界では「夏目漱石が所有していた森鷗外謹呈の『高瀬舟』(書き込みアリ)」という「その特別な一冊でなければダメ」という状況が存在する。このような状況下では、出版社がどこだとか版はいくつだなどという事項は最早問題にならない。この場合、図書館も真っ青な書誌情報管理……どころか、個別資料としての管理が行われる。
しかし図書館や一般的な新刊書店では、同一のコンテンツが手に入れば「同じ本」と見なしても実運用上問題がない。この「同一のコンテンツ」であると同定するための紐づけに用いられる情報が書誌情報という訳だ。出版業界の書籍流通では、ISBNが同じであれば同一のコンテンツであるとする規定になっているが、中には岩波書店のように新訳版を旧訳版のISBNに「上書き」するところもあるので注意が必要だ。本当は、そういうのはいけないのだけれど。なお、ISBNの運用ガイドラインについてはオフィシャルサイトに分かりやすい説明がある。ある本が文庫落ちKindle化したときにも異なるISBNコードを付与することになっている、など、興味深いルールが定められている。


書店における書誌情報の表示には食品における情報表示のように法的規制がある訳ではない。だから、Amazonが書籍流通のデファクトスタンダードに反し、営利目的であえて「同じ本」とは思えないものをあたかも「同じ本」と見えるように表示していたとしても、犯罪ではない。その点において「営利企業なんだから仕方ない、問題ではない」とする立場にも一定の理はある。
しかしこれがもし食品で、どんなに安全面や食味でもまったく問題がなかったとしても、例えばスーパーマーケットの日本産ウナギの棚に中国産ウナギが誤認しやすい形で入り混じっていたとしたら、これには腹が立つひとが多いのではないだろうか?「ただ混在させて置いただけで、ひっくり返せばラベルの下に原産国が書いてあるのだから偽装表示には当たらない」と主張されたとして納得できるのだろうか。


我々は社会生活を送る上で、世の中に存在するあらゆるものに一定の信頼をおいて生活している。「銀行員は口座からお金を盗まない」「食品の原産地表示は正しい」「犯罪者は警察が逮捕してくれる」「お店のレジ係は釣銭をごまかさない」といった信頼が崩れている社会では、日常生活にかかるコストが大きく増大してしまう。つまりこうした信頼は社会生活を支える資源の一種とみなすことができ、社会関係資本と呼ばれている。
オンライン書店におけるISBNに基づいた本の紐づけの正しさを社会関係資本に数え上げるかどうかは議論の必要な問題だが、少なくともAmazonは異なるISBNどころか異なる出版社、異なる著者の本を「同じ本」として紐づけていた。出版社が異なるもの同士が紐づけされていた以上、これは出版社側のミスではなくAmazon側の問題だ。意図的なものかどうかは別として、このような問題が発生する可能性をAmazon側が把握し、放置していた以上「営利企業なんだから仕方ない、Amazonはあえて対処する必要はない、利用者の側で気を付ければいい」とは個人的には思わない。新刊本くらい、どの書店でも安心して買える世の中であってほしい物だ。



……それで「じゃあお前がそういう書店をやれよ!」「どこならいいって言うんだよ?!」というお声も頂いたので、今ある他のオンライン書店はどんな感じなのかを軽く図書館学徒目線で紹介する。

honto.jp

http://honto.jp/netstore.html
大日本印刷丸善CHIホールディングスが株主として参加しているトゥ・ディファクト社運営のオンライン書店bk1はここに吸収された。丸善ジュンク堂文教堂と共通のhontoポイントが使えるし、それぞれの店舗検索も可能。紙の本と電子書籍を扱っている。品揃えは新刊本なら十分に豊富だが、中古品は扱っていない。
版型違いの本同士の紐づけは厳格で、電子書籍版の底本になっているもの1冊が紐づいているだけだ。文庫版と分冊版や新書版の紐づけすらない。


実のところ、版型違いを「同じコンテンツ」の掲載された「同じ本」とするかどうかはかなり微妙な問題である。多くの本は違う版型で出版する際に大抵ある程度の「見直し」がされるものだし、特に京極夏彦作品はかなり手を加えられることで有名だ。文庫の場合は巻末に解説が加わることも多い。また、マンガの場合は異なる版型になると収録話数やカラーページの扱いにも違いが出る。そもそもそのサイズや形式であることがとても重要な書籍、たとえば絵本の場合は、「はらぺこあおむし」が文庫落ちをしたところで到底「同じ本」とは思えないだろう。
だから安直に版型違いを「同じ本」として紐づけるべきだとは思わないが、読者の利便性を考えるならば、Amazonのような柔軟な版型違い表示も望ましい。ただそれに限度ってものはあって……となると、始めに戻ってなかなか結論の出ない話ではあるのだけれど。

Honya Club

http://www.honyaclub.com/shop/default.aspx
業界最大手取次である日販(日本出版販売株式会社)のオンライン書店。現時点で電子書籍や中古品の取り扱いはない。リブロや文教堂八重洲ブックセンターなど多くの書店での店頭受け取りに対応しているが、ジュンク堂丸善ブックファーストではできないようだ。やはりHonya Club加盟書店と共通のポイントが利用できる。
なお、こちらも版型違いの紐づけは行っていない。

e-hon

http://www.e-hon.ne.jp/bec/EB/Top
やはり業界大手取次であるトーハンオンライン書店。こちらもやはり全国多くの書店で店頭受け取りが可能。上記と同様に電子書籍と中古品は扱っていない。品揃えが少々見劣りする。

紀伊国屋書店WEBストア

https://www.kinokuniya.co.jp/
大手書店・紀伊国屋オンライン書店。もちろん紀伊国屋とポイントが共通であり、商品ごとに店舗在庫の検索も可能。ただ店舗受け取りはできない。電子書籍の取り扱いもあり、底本となった紙の本と一対一対応している。他の判型違いの紐づけはない。

楽天ブックス

http://books.rakuten.co.jp/
楽天市場オンライン書店。言うまでもないが電子書籍や中古品も扱っている。こちらも本の紐づけは底本となった紙の本と一対一対応しているのみだ。

Yahoo!ブックストア

http://bookstore.yahoo.co.jp/
電子書籍のみを取り扱うオンライン書店電子書籍のみなので、版型違いの紐づけなどということはない。


やはり様々なオンライン書店を見比べると、Amazonの圧倒的な使いやすさは改めて素晴らしいと思える。他の本と混在してさえいなければレビューも豊富で参考になる。ただ、特に都市圏ではリアル書店での受け取りや書店在庫検索はとても便利だから、今日中にどうしても必要な本がある場合は積極的に活用したいサービスだ。


なお、Amazonの特徴として挙げられていた豊富な関連書籍の提示だが、似たような機能を持つサービスがある。あるテーマに関する本をできるだけたくさん知りたい場合は、オンライン書店ではないが国立情報学研究所が運営している以下のサービスが役立つ。

Webcat plus

この「連想検索」というサービスが面白い。キーワードや文章を入力すると、関連する書籍やキーワードを大量に表示してくれるのだ。
右側に表示されているキーワードをクリックすると、どんどん検索結果が洗練されてゆく。大学図書館や研究者向けのサービスであるため、しっかりした内容の本も多く、全く未知の分野の本を調べたい場合に手軽で便利なサービスだ。

当ダイアリはこれからも書籍流通の未来に着目していきたいと思います。

【悲報】amazonの書誌情報管理がマジクソな件について

Amazonで『不思議の国のアリス』を買おうとします

        ↓
Kindle版があるのでクリックします

        ↓

!!!!????


結論から言おう。Amazonルイス・キャロル原作の『不思議の国のアリス』というタイトルの本なら絵本と文庫本はおろか、訳者が違おうが出版社が違おうが「全部同じ本」として扱っている。


もうちょっと細かい話をする。Amazonは商品管理においてASINコードと言う独自の商品管理番号を使用しており、このASINコードは全世界のAmazonで共通なのだが、それが本の場合はその本のISBN10桁をそのままASINコードとして使用している。それで、角川文庫版の『不思議の国のアリス』と、たとえば「単行本」をクリックしたら出てくる集英社版の『不思議の国のアリス』は、それぞれ "4042118038" と "4082740252" という異なるISBN==ASINコードが振られており、厳密には異なる本として登録されている。ただ、利用者に提示するインタフェースとしてはあくまで「同じ本の判型違い」扱いなのだ。


ある本とある本が同じ、とはどういう意味だろうか。図書館情報学分野にはFRBR(書誌レコードの機能要件)という細かい話もあるのだが、基本的に学術分野では「著者」「出版社」「出版年」「書名」が同一ならば同じ本として扱われる。また、商業出版されている本ならばISBNというものが割り振られており、ISBNが同一ならば事実上同じ本と見なされる。とは言っても、ISBNは使いまわしされることもあるので完全にユニークとは言い難い部分もあるのだけれど。
とにかく、ある本を同定するために必要な情報を「書誌情報」という。これがはっきりしないと、誰かがブログで引用していた面白い本をAmazonや図書館で探すことができない。とはいっても、Amazonにこんなことをされたのでは書誌情報が分かったところで「同じ本」を簡単に入手できないのだけれど。


例え書誌情報の一部が異なっても、実用上は「同じ本」とされてもあまり問題ないものはある。たとえば京極夏彦姑獲鳥の夏』には講談社ノベルス版と講談社文庫版がある。講談社文庫版の方が後から出版されたために出版年度が異なるが、ほとんどの場合は「同じ本」扱いされてもそれほど困らないだろう。判型が異なるとページ数が変わってくるので、引用文献としてページ数を指定する必要がある場合は「違う本」とするべきなんだが。


ただ『不思議の国のアリス』は原著者こそ一人なものの、異なる多くの挿絵画家によって挿絵が書かれており、異なる多くの翻訳者によって翻訳され、異なる多くの出版社から異なる多くの判型によって出版されている。いくらなんでも、子ども向けアニメ絵本と柳瀬尚紀訳のアリスを「同じ本」として扱うのは無理がありすぎるのではないか。


Amazonはこの調子で異なるアリスのレビューも全部ひとまとめにブチこんでいるため、たとえば以下のように大変な風評被害が発生している。

★★★★★ スラスラ読める「アリス」

 今まで「不思議の国のアリス」は誰の訳を読んでも何を書いてあるのかまったく分からなかったのですが、この河合祥一郎氏の訳は面白いです。ちゃんと小説として成り立っております。さぞ研究なされたのでしょう。
 懐中時計を持ったウサギを追いかけて、穴に落ちて、いろんな目に遭って…次から次へ巻き起こる珍事件怪事件、私にはこれを楽しめる日は来ないのではないかと思っていましたし、同じ思いの人もたくさんおられることでしょう。でも楽しく読みたいという気持ちはこれで叶いました。
 アリスの世界観やテニエルの挿絵は好きだけど、文章が辛かったアナタ、ぜひ角川文庫のアリスご一読を。

このレビューが表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリスだ。

★★★★★ 希少な本に出会えました, 2014/10/22

このお話をまど・みちおさんの文章で楽しむ事ができるなんて、と探しました。
状態もきれいで、充分鑑賞に堪えます。
お安く手に入れられて、助かりました。
ありがとうございました。

このレビューも表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリス。しかも新品。

★☆☆☆☆ CDが欠けていた, 2014/10/6

中古を買ったら、CDがついていなかった。
CDが欠けてるならCD無しと、説明をちゃんとつけるべきだ。

このレビューも表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリスで、当然のことながら元々CDはついていない。


どのレビューも詳細情報を見ればどの「アリス」に対するものなのかが特定できるのだが、そもそも一緒くたに表示されているのがおかしい。関係ないレビューをつけられて訳者や出版社のひとは困惑するのではないだろうか?


また、割とどうしようもないのが以下のような翻訳書の扱いだ。

欲しい本

     ↓
Kindle版で降ってくる本

見ての通り原著だ。翻訳書の方をKindle化してほしくとも、Kindle版が既に登録されている扱いのため「このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください」のリンクが表示されない。このままでは詰みだ。未来永劫この本はKindleで読めない。


なお、こういった取扱いで個人的に一番イラッときた点は「翻訳者の無視」だ。もちろんある著作の誕生における最大の貢献者は著者自身だろうが、翻訳者もまたその言語におけるその著作の命を吹き込んだ、二人目の著者とも言うべき存在だ。翻訳は誰がやっても同じではない。その訳者だからこそ吹き込まれた本の命というものがあるだろう。その存在がAmazonでは完全に無視され、挙句の果てはこの扱いだ。


これはどちらもAmazon平田昭吾氏の著者ページだ。『不思議の国のアリス』の、河合祥一朗氏と矢川澄子氏の訳が混じっている。


Amazonさん、さすがにこの書誌情報の取り扱いはメチャクチャではないですか?もうちょっとなんとかなりませんか?


(※追記※)

id:blueboy 一般的な現象ではない。パソコンで確認したら、すべて区別されている。http://j.mp/1B0Yssm http://j.mp/1vo6mFG http://j.mp/1Bg1dEm 特定のマシン環境(Kindle?)でのみ発生するのでは? 悪口を書くなら、もっと調査してから。

本稿で扱った『不思議の国のアリス』はこちら( http://www.amazon.co.jp/dp/4042118038 )のものです。PCで見ようがAndroidで見ようが結果は同じです。
例示された『不思議の国のアリス』では、まず「不思議の国のアリス・オリジナル」は書名が異なるため、別の本として認識されています。また、岩波少年文庫版並びに新書館版については、これらの出版社の出版物について同じ現象が見受けられないため、おそらく出版社側の申し立てにより「別の本」として扱われていのではないかと思われます。


これは推測ですが、Amazonは書名と原著者、あるいは著者のうち一人が一致するならばデフォルトで「同じ本」として扱うのだと思います。それに疑義があれば、申し立てによりその紐付けを解除するオプトアウト式なのではないかなと。

関連書籍を自動的に検出し提示してくれる機能は、Amazonを現在の地位まで押し上げた大きな特徴であり、ユーザーへの恩恵も多いと思います。ただそれならそれで「関連書籍」として提示すればよいだけで、あたかも同じ本の判型違いであるかのように表示するやり方は誤購入にもつながり、よい方法ではないと思います。おそらく、全部の出版社がこの現象をちゃんと認識している訳でもないでしょう。

図書館は年間何冊の本を捨てているか

本日の産経新聞にこんな報道がありました。
「横浜市の図書館、蔵書2万冊不明 無断持ち出し原因」

 横浜市立の18図書館で毎年、蔵書全体の0・5%に当たる約2万冊が無断持ち出しなどで所在不明になっていることが16日、監査委員による定期監査で分かった。図書館利用をめぐっては、図書・雑誌の切り抜きや書き込みなど利用者のモラルが問われるトラブルが絶えず、市は「みんなの財産なので大切にしてほしい」と呼びかけている。


 平成26年度第1回定期監査結果報告書によると、市内の18館合計の蔵書は約406万冊に上る。
 そのうち、今回監査対象となった21年度から25年度までの5年間で、無断持ち出しが原因とみられる不明除籍図書数の平均は年間で1万9024冊だった。

でもこれだけ見せられても、多いのか少ないのかよく分からないですね……
そこで参考までに他の政令指定都市のデータをまとめてみました。

横浜市のように無断持ち出しなどの原因別のデータをまとめているところはあまりなかったので、代わりに「除籍(払出)数」をカウントしています。
図書館は古くなり利用されなくなった本や汚損された本などを毎年廃棄していますが、これを「除籍(払出)」と言います。
除籍になる理由は様々ですが、紛失や悪意ある汚損といったもの以外も含まれていることをご留意ください。

あ、ちなみに横浜市の人口は371万人で、最大の政令指定都市です。

 都市名    人口    図書館数    所蔵資料数     除籍数  
札幌市 194万人 39 2,570,549 68,161
仙台市 107万人 7 1,821,568 46,062
さいたま市 126万人 24 3,445,930 124,140
千葉市 97万人 35 2,725,401 27,239
川崎市 146万人 12 1,906,253 152,881
新潟市 80万人 23 1,619,896 72,505
名古屋市 228万人 21 3,195,949 143,409
京都市 147万人 20 1,883,875 76,382
大阪市 268万人 25 3,967,887 100,394
神戸市 154万人 11 1,901,841 87,333


ふー……
政令指定都市全部を網羅できなくてすみません。疲れました。でも大体の傾向は分かっていただけたのではないかと思います。

後出しですみませんが、横浜市立図書館の今年の除籍冊数は170,300冊です。このうち紛失が2万冊弱と言うことですね。
個人的にはなんかこんなもん?という気もしますが、如何でしょうか。

勉強したくない子ども、勉強したくなかった大人に送る7冊

橙乃ままれまおゆう魔王勇者

言わずと知れた超有名作ですが、現実の学問の何がどんな風に具体的に実生活に役立つのかを鮮やかに描き出しています。これを読んで経済学部に行きたくなるひとは多いのではないでしょうか?
同著者の『ログ・ホライズン1 異世界のはじまり』もおススメです。これで君もいつ異世界へ飛ばされても安心だ?!

支倉凍砂狼と香辛料

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

引き続きラノベ2つ目です。こちらも説明不要ですかね、とりあえず経済学部へ行きたくなること請け合いです。ホロ可愛いよホロ。

橘玲『亜玖夢博士の経済入門』

亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫)

亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫)

ビジネス作家として著名な橘玲氏の短編小説集です。人々の悩みを稀代のマッドサイエンティスト賢者である亜玖夢博士が現代の学問成果を駆使して救うのですが、その結果は……?というちょっと笑ゥせぇるすまんみたいな話です。人生の幸せについて考えさせてくれます。
博士を取り巻くキャラクターもとっても魅力的です。「相談無料。地獄を見たら悪玖夢へ」

クリフォード・ストール『カッコウはコンピュータに卵を産む』

カッコウはコンピュータに卵を産む〈上〉

カッコウはコンピュータに卵を産む〈上〉

たった75セントだけ使用料金が合わないことに気づいた新米システム管理者。原因究明の旅はいつのまにか世界を股にかける壮大な戦いに発展して……
ノンフィクションです。1991年の古い本なので今となっては色々と事情の違うところも多いですが、インフラエンジニアってこんなに血沸き肉踊る仕事だったのかー?!とびっくりします。いつも使っている割に仕組みが抽象的で良く分からないインターネットですが、情報を勉強する意欲が湧いてくると思います。
現在再版未定扱いのようですね……高校生のわたしはこれを読んでいて学校をサボったくらい面白かったのですが、再版を期待します。

ウィリアム・パウンドストーン『ビル・ゲイツの面接試験 -富士山をどう動かしますか?』

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

こちらもノンフィクションです。MicrosoftGoogle、いわゆる天才の集う一流企業はどうやって「天才」を見分けているのか?に迫ります。関係者に綿密な取材をした上で歴史的経緯から追っており、ところどころに織り交ぜられる実際のパズルのような面接試験問題もあってどこかミステリのような緊張感のある一冊です。ビル・ゲイツのキャラが立っています。
「勉強しないといい会社に入れませんよ!」の具体的な意味内容がこれでわかるかもしれません(?)

高橋昌一郎『理性の限界』

大勢の立場のひとびとが理性の限界についてシンポジウム形式で語りつくします。選挙って本当に意味あるの?科学と宗教ってどう違うの?などなど、中学二年生なら誰でも考えるようなテーマをとことん、でも分かりやすく突き詰めています。厨二病ニヒリズムに堕ちるのはこれを読んでからにしましょう!

松井優征暗殺教室

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

現在ジャンプにて大ヒット中のマンガです。説明不要ですかね。やはり高校生の頃、本気で学校を制圧したり誰かを殺したりするにはどうしたらいいかを友だちとアツく語り合った思い出が甦ります。あなたなら殺せんせーをどうやって殺しますか?

番外『できない子は知恵の悪魔と呼ばれるようです』

できない子は知恵の悪魔と呼ばれるようです -このやる夫スレ、まとめてもよろしいですか?
本ではないので番外扱いです。やる夫シリーズですがやる夫出てきません。数学ガールが古代ファンタジー世界で無双?するお話です。テイストとしては先頭の2冊に似ていますね。これで君もいつ異世界に召喚されても安心(ry



如何でしたでしょうか?一冊でも読んでみたいと思えるものがありましたら幸いです。ほかにもサイモン・シン『暗号解読』やスマリヤン『無限のパラドックス』、パウンドストーン『天才数学者はこう賭ける』などなどたくさんご紹介したい本はありましたが、まずは読み易さを優先して上記をセレクトしました。


みなさんのおススメ本もございましたらぜひ教えてください!

承前

勉強に対して意義が見出せずやる気がなくなる主な理由は

  1. 勉強という行為が単純に面白くない
  2. 適切なロールモデルやゴールが見えない
  3. 疲労

です。

特に上2つは密接に関連していますが、机に向かってもくもくとドリルを解いたり年表を暗記したりするような作業を「面白い!」と感じるには、相当のモチベーションや目標が必要です。


ここで言う目標なりロールモデルなりは、抽象的なものでは効果を発揮しません。また恐怖心をあおるようなものでも面白さにはつながりません。
「勉強しないとロクな大人になれませんよ!」
「勉強したらいい大学に入っていい会社に入れて年収が上がりますよ」
式のお説教はあまり効果がありません。

かといって、あんまり具体的過ぎて断片的・実際的になってしまっても持続的なモチベーションにはつながりません。
「数学をやると複利について分かるからクレジットカードを持った時に賢く使えますよ!」
と言われても、中高生にとっては
「だから……?」
でしょう。
社会に出た時どんなに役に立つことでも、まだ社会に出ていない子どもにとっては実感がありませんし、そんなことのために毎日8時間も勉強するのかと思うとあまりにも夢がなくてげんなりするかもしれません。


今すでに勉強へのモチベーションにつながる何かワクワクすることがあるならよいですが、そうでないから勉強へのやる気が低下している訳です。勉強のまっすぐ先にあるワクワクを具体的に見せる必要があります。


ですからこのブックガイドでは、勉強の先にはこんなに面白い人生が――いや、数冊の本で語るには人生はあまりにも可能性に満ちています。こんなに面白い冒険が待ってるよ!という観点で本を選定していきます。

勉強の意味がわからない人へのブックガイド

※ここに紹介する本はすべてが子ども向けではありません。しかし適切な大人の助けがあれば、どれも中学生でも読み通せるものです。


ちきりんさんを発端とする普通教育課程再構築の話がにぎわっているようです。


わたしは教育学徒ですから、いずれの立場であれこういう話題をきっかけに皆さんが教育学について興味を持って頂ければとても嬉しいですし、ぜひ 『文章読本さん江 (ちくま文庫)』 や『学歴貴族の栄光と挫折 (講談社学術文庫)』でも読んでもらいたいなーと思っております。

なので本稿ではわたしの意見というよりは、
「何のために勉強するのかわからない」とお悩みの中高生や
「子どもにどうやって勉強の面白さを伝えたらいいのか分からない」とお悩みの保護者、教師の方に向けてお送りします。

でも本題はそういうところじゃなくて

反対派の皆様のご意見は
「そりゃー条文を好意的に解釈したら安全安心なんだろ?でもそうじゃない!政府なんか信用できるか、あいつらはどんな風に恣意的に運用するかわかったものじゃない!!」
なんですよね?
もしそういった、政府は一切信用ならずどのような条文を制定しても無意味であるという観点に立つならば、条文の精査は意味がなくなります。
条文の問題ある表記をこのように修正せよ、という提案ならともかく、当該法の成立そのものがまかりならぬという反対意見は、このような政府に対する根強い不信感が元になっていると思います。


それで、例えば刑法に基づく犯罪者の逮捕は警察が行っており、もし警察が恣意的な基準に従って不当逮捕を行った場合は司法機関がこれを検証することになっていたかと思います(この解釈あってる?)
つまり、たとえ警察が信用できなくとも裁判所が信用できれば刑法は問題なく運用されると信じられる訳です。

特定秘密保護法の場合、警察の役割は各行政機関が、裁判所の役割は内閣が果たすイメージだと思います。行政機関の皆様はおとなしく内閣の言いなりになるようなタマではない*1し、我が国においては内閣がコロコロ変るので、政権交代が適切に行われているならば検証制度としてはそう悪くないと個人的には思っています。

「内閣だって行政機関なんだから、行政機関同士チェックが甘くなるだろ!」というご意見がありますが、この「行政機関同士だからチェックが甘くなる」のは何故なのかがわからないです。
内閣(総理大臣)は選挙で選ばれていてコロコロ変ったりしますが、行政機関職員の大半は公務員として雇用された方々で選良ではありません。官公庁ひとつとっても、内閣と完全に利害が一致しているとは思えない事例が多々あります。なぜ行政機関同士だとチェックが甘くなるのでしょうか?


この辺りのところ、実際には、そして法学・政治学分野ではどういう見解があるんでしょう?


「内閣のやることなすこと信じられるか!」が市民として望ましいスタンスなのか、
「我々が信任した内閣なんだから」と一定の信頼をもって日々の運営を委任するのが筋なのか。


こういうことに正解はないと思います。皆様ご意見は色々あるでしょうし、立場の多様性がバランスのとれた健全な社会を生みます。
その上で、そういうことを専門に研究してこられたであろう学問分野では今までどういう議論がどこまで積み重なっているのか、ご教示いただけますと幸いです。
「この本読め!」とかいうリスト、大歓迎です。その場合、なぜその本をご紹介いただけるのか、その本を読むと何がわかるのかを簡単に教えて頂けますと大歓喜ですし、ほかのひとにも役に立つと思います。


以上の通り、どうぞよろしくお願いいたします。

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

*1:我が国の行政機関が内閣と一心同体で足並みがそろっているなら、そもそも脱官僚政治などというスローガンは生まれなかった訳で……おや宅急便かな?