図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

【悲報】amazonの書誌情報管理がマジクソな件について

Amazonで『不思議の国のアリス』を買おうとします

        ↓
Kindle版があるのでクリックします

        ↓

!!!!????


結論から言おう。Amazonルイス・キャロル原作の『不思議の国のアリス』というタイトルの本なら絵本と文庫本はおろか、訳者が違おうが出版社が違おうが「全部同じ本」として扱っている。


もうちょっと細かい話をする。Amazonは商品管理においてASINコードと言う独自の商品管理番号を使用しており、このASINコードは全世界のAmazonで共通なのだが、それが本の場合はその本のISBN10桁をそのままASINコードとして使用している。それで、角川文庫版の『不思議の国のアリス』と、たとえば「単行本」をクリックしたら出てくる集英社版の『不思議の国のアリス』は、それぞれ "4042118038" と "4082740252" という異なるISBN==ASINコードが振られており、厳密には異なる本として登録されている。ただ、利用者に提示するインタフェースとしてはあくまで「同じ本の判型違い」扱いなのだ。


ある本とある本が同じ、とはどういう意味だろうか。図書館情報学分野にはFRBR(書誌レコードの機能要件)という細かい話もあるのだが、基本的に学術分野では「著者」「出版社」「出版年」「書名」が同一ならば同じ本として扱われる。また、商業出版されている本ならばISBNというものが割り振られており、ISBNが同一ならば事実上同じ本と見なされる。とは言っても、ISBNは使いまわしされることもあるので完全にユニークとは言い難い部分もあるのだけれど。
とにかく、ある本を同定するために必要な情報を「書誌情報」という。これがはっきりしないと、誰かがブログで引用していた面白い本をAmazonや図書館で探すことができない。とはいっても、Amazonにこんなことをされたのでは書誌情報が分かったところで「同じ本」を簡単に入手できないのだけれど。


例え書誌情報の一部が異なっても、実用上は「同じ本」とされてもあまり問題ないものはある。たとえば京極夏彦姑獲鳥の夏』には講談社ノベルス版と講談社文庫版がある。講談社文庫版の方が後から出版されたために出版年度が異なるが、ほとんどの場合は「同じ本」扱いされてもそれほど困らないだろう。判型が異なるとページ数が変わってくるので、引用文献としてページ数を指定する必要がある場合は「違う本」とするべきなんだが。


ただ『不思議の国のアリス』は原著者こそ一人なものの、異なる多くの挿絵画家によって挿絵が書かれており、異なる多くの翻訳者によって翻訳され、異なる多くの出版社から異なる多くの判型によって出版されている。いくらなんでも、子ども向けアニメ絵本と柳瀬尚紀訳のアリスを「同じ本」として扱うのは無理がありすぎるのではないか。


Amazonはこの調子で異なるアリスのレビューも全部ひとまとめにブチこんでいるため、たとえば以下のように大変な風評被害が発生している。

★★★★★ スラスラ読める「アリス」

 今まで「不思議の国のアリス」は誰の訳を読んでも何を書いてあるのかまったく分からなかったのですが、この河合祥一郎氏の訳は面白いです。ちゃんと小説として成り立っております。さぞ研究なされたのでしょう。
 懐中時計を持ったウサギを追いかけて、穴に落ちて、いろんな目に遭って…次から次へ巻き起こる珍事件怪事件、私にはこれを楽しめる日は来ないのではないかと思っていましたし、同じ思いの人もたくさんおられることでしょう。でも楽しく読みたいという気持ちはこれで叶いました。
 アリスの世界観やテニエルの挿絵は好きだけど、文章が辛かったアナタ、ぜひ角川文庫のアリスご一読を。

このレビューが表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリスだ。

★★★★★ 希少な本に出会えました, 2014/10/22

このお話をまど・みちおさんの文章で楽しむ事ができるなんて、と探しました。
状態もきれいで、充分鑑賞に堪えます。
お安く手に入れられて、助かりました。
ありがとうございました。

このレビューも表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリス。しかも新品。

★☆☆☆☆ CDが欠けていた, 2014/10/6

中古を買ったら、CDがついていなかった。
CDが欠けてるならCD無しと、説明をちゃんとつけるべきだ。

このレビューも表示されていたのは集英社文庫版・北村太郎訳のアリスで、当然のことながら元々CDはついていない。


どのレビューも詳細情報を見ればどの「アリス」に対するものなのかが特定できるのだが、そもそも一緒くたに表示されているのがおかしい。関係ないレビューをつけられて訳者や出版社のひとは困惑するのではないだろうか?


また、割とどうしようもないのが以下のような翻訳書の扱いだ。

欲しい本

     ↓
Kindle版で降ってくる本

見ての通り原著だ。翻訳書の方をKindle化してほしくとも、Kindle版が既に登録されている扱いのため「このタイトルのKindle化をご希望の場合、こちらをクリックしてください」のリンクが表示されない。このままでは詰みだ。未来永劫この本はKindleで読めない。


なお、こういった取扱いで個人的に一番イラッときた点は「翻訳者の無視」だ。もちろんある著作の誕生における最大の貢献者は著者自身だろうが、翻訳者もまたその言語におけるその著作の命を吹き込んだ、二人目の著者とも言うべき存在だ。翻訳は誰がやっても同じではない。その訳者だからこそ吹き込まれた本の命というものがあるだろう。その存在がAmazonでは完全に無視され、挙句の果てはこの扱いだ。


これはどちらもAmazon平田昭吾氏の著者ページだ。『不思議の国のアリス』の、河合祥一朗氏と矢川澄子氏の訳が混じっている。


Amazonさん、さすがにこの書誌情報の取り扱いはメチャクチャではないですか?もうちょっとなんとかなりませんか?


(※追記※)

id:blueboy 一般的な現象ではない。パソコンで確認したら、すべて区別されている。http://j.mp/1B0Yssm http://j.mp/1vo6mFG http://j.mp/1Bg1dEm 特定のマシン環境(Kindle?)でのみ発生するのでは? 悪口を書くなら、もっと調査してから。

本稿で扱った『不思議の国のアリス』はこちら( http://www.amazon.co.jp/dp/4042118038 )のものです。PCで見ようがAndroidで見ようが結果は同じです。
例示された『不思議の国のアリス』では、まず「不思議の国のアリス・オリジナル」は書名が異なるため、別の本として認識されています。また、岩波少年文庫版並びに新書館版については、これらの出版社の出版物について同じ現象が見受けられないため、おそらく出版社側の申し立てにより「別の本」として扱われていのではないかと思われます。


これは推測ですが、Amazonは書名と原著者、あるいは著者のうち一人が一致するならばデフォルトで「同じ本」として扱うのだと思います。それに疑義があれば、申し立てによりその紐付けを解除するオプトアウト式なのではないかなと。

関連書籍を自動的に検出し提示してくれる機能は、Amazonを現在の地位まで押し上げた大きな特徴であり、ユーザーへの恩恵も多いと思います。ただそれならそれで「関連書籍」として提示すればよいだけで、あたかも同じ本の判型違いであるかのように表示するやり方は誤購入にもつながり、よい方法ではないと思います。おそらく、全部の出版社がこの現象をちゃんと認識している訳でもないでしょう。

図書館は年間何冊の本を捨てているか

本日の産経新聞にこんな報道がありました。
「横浜市の図書館、蔵書2万冊不明 無断持ち出し原因」

 横浜市立の18図書館で毎年、蔵書全体の0・5%に当たる約2万冊が無断持ち出しなどで所在不明になっていることが16日、監査委員による定期監査で分かった。図書館利用をめぐっては、図書・雑誌の切り抜きや書き込みなど利用者のモラルが問われるトラブルが絶えず、市は「みんなの財産なので大切にしてほしい」と呼びかけている。


 平成26年度第1回定期監査結果報告書によると、市内の18館合計の蔵書は約406万冊に上る。
 そのうち、今回監査対象となった21年度から25年度までの5年間で、無断持ち出しが原因とみられる不明除籍図書数の平均は年間で1万9024冊だった。

でもこれだけ見せられても、多いのか少ないのかよく分からないですね……
そこで参考までに他の政令指定都市のデータをまとめてみました。

横浜市のように無断持ち出しなどの原因別のデータをまとめているところはあまりなかったので、代わりに「除籍(払出)数」をカウントしています。
図書館は古くなり利用されなくなった本や汚損された本などを毎年廃棄していますが、これを「除籍(払出)」と言います。
除籍になる理由は様々ですが、紛失や悪意ある汚損といったもの以外も含まれていることをご留意ください。

あ、ちなみに横浜市の人口は371万人で、最大の政令指定都市です。

 都市名    人口    図書館数    所蔵資料数     除籍数  
札幌市 194万人 39 2,570,549 68,161
仙台市 107万人 7 1,821,568 46,062
さいたま市 126万人 24 3,445,930 124,140
千葉市 97万人 35 2,725,401 27,239
川崎市 146万人 12 1,906,253 152,881
新潟市 80万人 23 1,619,896 72,505
名古屋市 228万人 21 3,195,949 143,409
京都市 147万人 20 1,883,875 76,382
大阪市 268万人 25 3,967,887 100,394
神戸市 154万人 11 1,901,841 87,333


ふー……
政令指定都市全部を網羅できなくてすみません。疲れました。でも大体の傾向は分かっていただけたのではないかと思います。

後出しですみませんが、横浜市立図書館の今年の除籍冊数は170,300冊です。このうち紛失が2万冊弱と言うことですね。
個人的にはなんかこんなもん?という気もしますが、如何でしょうか。

勉強したくない子ども、勉強したくなかった大人に送る7冊

橙乃ままれまおゆう魔王勇者

言わずと知れた超有名作ですが、現実の学問の何がどんな風に具体的に実生活に役立つのかを鮮やかに描き出しています。これを読んで経済学部に行きたくなるひとは多いのではないでしょうか?
同著者の『ログ・ホライズン1 異世界のはじまり』もおススメです。これで君もいつ異世界へ飛ばされても安心だ?!

支倉凍砂狼と香辛料

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

引き続きラノベ2つ目です。こちらも説明不要ですかね、とりあえず経済学部へ行きたくなること請け合いです。ホロ可愛いよホロ。

橘玲『亜玖夢博士の経済入門』

亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫)

亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫)

ビジネス作家として著名な橘玲氏の短編小説集です。人々の悩みを稀代のマッドサイエンティスト賢者である亜玖夢博士が現代の学問成果を駆使して救うのですが、その結果は……?というちょっと笑ゥせぇるすまんみたいな話です。人生の幸せについて考えさせてくれます。
博士を取り巻くキャラクターもとっても魅力的です。「相談無料。地獄を見たら悪玖夢へ」

クリフォード・ストール『カッコウはコンピュータに卵を産む』

カッコウはコンピュータに卵を産む〈上〉

カッコウはコンピュータに卵を産む〈上〉

たった75セントだけ使用料金が合わないことに気づいた新米システム管理者。原因究明の旅はいつのまにか世界を股にかける壮大な戦いに発展して……
ノンフィクションです。1991年の古い本なので今となっては色々と事情の違うところも多いですが、インフラエンジニアってこんなに血沸き肉踊る仕事だったのかー?!とびっくりします。いつも使っている割に仕組みが抽象的で良く分からないインターネットですが、情報を勉強する意欲が湧いてくると思います。
現在再版未定扱いのようですね……高校生のわたしはこれを読んでいて学校をサボったくらい面白かったのですが、再版を期待します。

ウィリアム・パウンドストーン『ビル・ゲイツの面接試験 -富士山をどう動かしますか?』

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

こちらもノンフィクションです。MicrosoftGoogle、いわゆる天才の集う一流企業はどうやって「天才」を見分けているのか?に迫ります。関係者に綿密な取材をした上で歴史的経緯から追っており、ところどころに織り交ぜられる実際のパズルのような面接試験問題もあってどこかミステリのような緊張感のある一冊です。ビル・ゲイツのキャラが立っています。
「勉強しないといい会社に入れませんよ!」の具体的な意味内容がこれでわかるかもしれません(?)

高橋昌一郎『理性の限界』

大勢の立場のひとびとが理性の限界についてシンポジウム形式で語りつくします。選挙って本当に意味あるの?科学と宗教ってどう違うの?などなど、中学二年生なら誰でも考えるようなテーマをとことん、でも分かりやすく突き詰めています。厨二病ニヒリズムに堕ちるのはこれを読んでからにしましょう!

松井優征暗殺教室

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

現在ジャンプにて大ヒット中のマンガです。説明不要ですかね。やはり高校生の頃、本気で学校を制圧したり誰かを殺したりするにはどうしたらいいかを友だちとアツく語り合った思い出が甦ります。あなたなら殺せんせーをどうやって殺しますか?

番外『できない子は知恵の悪魔と呼ばれるようです』

できない子は知恵の悪魔と呼ばれるようです -このやる夫スレ、まとめてもよろしいですか?
本ではないので番外扱いです。やる夫シリーズですがやる夫出てきません。数学ガールが古代ファンタジー世界で無双?するお話です。テイストとしては先頭の2冊に似ていますね。これで君もいつ異世界に召喚されても安心(ry



如何でしたでしょうか?一冊でも読んでみたいと思えるものがありましたら幸いです。ほかにもサイモン・シン『暗号解読』やスマリヤン『無限のパラドックス』、パウンドストーン『天才数学者はこう賭ける』などなどたくさんご紹介したい本はありましたが、まずは読み易さを優先して上記をセレクトしました。


みなさんのおススメ本もございましたらぜひ教えてください!

承前

勉強に対して意義が見出せずやる気がなくなる主な理由は

  1. 勉強という行為が単純に面白くない
  2. 適切なロールモデルやゴールが見えない
  3. 疲労

です。

特に上2つは密接に関連していますが、机に向かってもくもくとドリルを解いたり年表を暗記したりするような作業を「面白い!」と感じるには、相当のモチベーションや目標が必要です。


ここで言う目標なりロールモデルなりは、抽象的なものでは効果を発揮しません。また恐怖心をあおるようなものでも面白さにはつながりません。
「勉強しないとロクな大人になれませんよ!」
「勉強したらいい大学に入っていい会社に入れて年収が上がりますよ」
式のお説教はあまり効果がありません。

かといって、あんまり具体的過ぎて断片的・実際的になってしまっても持続的なモチベーションにはつながりません。
「数学をやると複利について分かるからクレジットカードを持った時に賢く使えますよ!」
と言われても、中高生にとっては
「だから……?」
でしょう。
社会に出た時どんなに役に立つことでも、まだ社会に出ていない子どもにとっては実感がありませんし、そんなことのために毎日8時間も勉強するのかと思うとあまりにも夢がなくてげんなりするかもしれません。


今すでに勉強へのモチベーションにつながる何かワクワクすることがあるならよいですが、そうでないから勉強へのやる気が低下している訳です。勉強のまっすぐ先にあるワクワクを具体的に見せる必要があります。


ですからこのブックガイドでは、勉強の先にはこんなに面白い人生が――いや、数冊の本で語るには人生はあまりにも可能性に満ちています。こんなに面白い冒険が待ってるよ!という観点で本を選定していきます。

勉強の意味がわからない人へのブックガイド

※ここに紹介する本はすべてが子ども向けではありません。しかし適切な大人の助けがあれば、どれも中学生でも読み通せるものです。


ちきりんさんを発端とする普通教育課程再構築の話がにぎわっているようです。


わたしは教育学徒ですから、いずれの立場であれこういう話題をきっかけに皆さんが教育学について興味を持って頂ければとても嬉しいですし、ぜひ 『文章読本さん江 (ちくま文庫)』 や『学歴貴族の栄光と挫折 (講談社学術文庫)』でも読んでもらいたいなーと思っております。

なので本稿ではわたしの意見というよりは、
「何のために勉強するのかわからない」とお悩みの中高生や
「子どもにどうやって勉強の面白さを伝えたらいいのか分からない」とお悩みの保護者、教師の方に向けてお送りします。

でも本題はそういうところじゃなくて

反対派の皆様のご意見は
「そりゃー条文を好意的に解釈したら安全安心なんだろ?でもそうじゃない!政府なんか信用できるか、あいつらはどんな風に恣意的に運用するかわかったものじゃない!!」
なんですよね?
もしそういった、政府は一切信用ならずどのような条文を制定しても無意味であるという観点に立つならば、条文の精査は意味がなくなります。
条文の問題ある表記をこのように修正せよ、という提案ならともかく、当該法の成立そのものがまかりならぬという反対意見は、このような政府に対する根強い不信感が元になっていると思います。


それで、例えば刑法に基づく犯罪者の逮捕は警察が行っており、もし警察が恣意的な基準に従って不当逮捕を行った場合は司法機関がこれを検証することになっていたかと思います(この解釈あってる?)
つまり、たとえ警察が信用できなくとも裁判所が信用できれば刑法は問題なく運用されると信じられる訳です。

特定秘密保護法の場合、警察の役割は各行政機関が、裁判所の役割は内閣が果たすイメージだと思います。行政機関の皆様はおとなしく内閣の言いなりになるようなタマではない*1し、我が国においては内閣がコロコロ変るので、政権交代が適切に行われているならば検証制度としてはそう悪くないと個人的には思っています。

「内閣だって行政機関なんだから、行政機関同士チェックが甘くなるだろ!」というご意見がありますが、この「行政機関同士だからチェックが甘くなる」のは何故なのかがわからないです。
内閣(総理大臣)は選挙で選ばれていてコロコロ変ったりしますが、行政機関職員の大半は公務員として雇用された方々で選良ではありません。官公庁ひとつとっても、内閣と完全に利害が一致しているとは思えない事例が多々あります。なぜ行政機関同士だとチェックが甘くなるのでしょうか?


この辺りのところ、実際には、そして法学・政治学分野ではどういう見解があるんでしょう?


「内閣のやることなすこと信じられるか!」が市民として望ましいスタンスなのか、
「我々が信任した内閣なんだから」と一定の信頼をもって日々の運営を委任するのが筋なのか。


こういうことに正解はないと思います。皆様ご意見は色々あるでしょうし、立場の多様性がバランスのとれた健全な社会を生みます。
その上で、そういうことを専門に研究してこられたであろう学問分野では今までどういう議論がどこまで積み重なっているのか、ご教示いただけますと幸いです。
「この本読め!」とかいうリスト、大歓迎です。その場合、なぜその本をご紹介いただけるのか、その本を読むと何がわかるのかを簡単に教えて頂けますと大歓喜ですし、ほかのひとにも役に立つと思います。


以上の通り、どうぞよろしくお願いいたします。

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

*1:我が国の行政機関が内閣と一心同体で足並みがそろっているなら、そもそも脱官僚政治などというスローガンは生まれなかった訳で……おや宅急便かな?

【追記あり】特定秘密保護法案に賛成することにした

※タイトルは釣りです(逃


本エントリはyuki_o氏の
特定秘密保護法案に反対することにした
の便乗エントリです。
わたし自身は同法案に対して賛成・反対以前に分からないことがあるので、そのことを法学分野の方にご教示頂ければと思い本エントリを投稿する次第です。


さてひとに教えを請うには自分でここまで調べたと示すのが学徒のならいです。
以下、参照している特定秘密保護法案の全文はこちらです
衆議院第一八五回閣第九号 特定秘密の保護に関する法律案
衆議院特定秘密の保護に関する法律案に対する修正案


ただ上記の2つは超絶文字組みが読みにくいので、こちらにはてなブログの美しいテンプレートで書きなおした物を置いておきました。ご利用は自己責任で。

「政府の都合で何でもかんでも恣意的に秘密にできるじゃないか!」

特定秘密に指定できるものは以下の通りです。(修正案反映済み)

別表(第三条、第五条−第九条関係)
 一 防衛に関する事項
  イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究
  ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報
  ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
  ニ 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究
  ホ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量
  ヘ 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
  ト 防衛の用に供する暗号
  チ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法
  リ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
  ヌ 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途(ヘに掲げるものを除く。)
 二 外交に関する事項
  イ 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの
  ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針(第一号イ若しくはニ、第三号イ又は第四号イに掲げるものを除く。)
  ハ 安全保障に関し収集した国民の生命及び身体の保護、領域の保全若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報又は条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報(第一号ロ、第三号ロ又は第四号ロに掲げるものを除く。)
  ニ ハに掲げる情報の収集整理又はその能力
  ホ 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号
 三 特定有害活動の防止に関する事項
  イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
  ロ 特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
  ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
  ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号
 四 テロリズムの防止に関する事項
  イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
  ロ テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又はは外国の政府若しくは国際機関からの情報
  ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
  ニ テロリズムの防止の用に供する暗号

これ、修正案において「又は」が「若しくは」に改められているのですが、なにか意味があるのでしょうか?
※追記
複数の方からご教示頂きましたが、結合されている選択肢のレイヤーに違いがあるのですね。勉強になりました。


また、特定秘密の指定および保護期間の延長に関しては内閣が細かくチェックし、有識者の意見も取り入れるべきとされています。特定秘密の指定において監査機関がない、との意見はありますが、本法においては内閣がその役割を果たすことになっています。なお、特定秘密自体は内閣以外の行政機関でも指定が可能です。


※追記
内閣には他の業務もあって忙しく、充分なチェック体制が運用上可能なのかという点も問題視されており、確かにその点は課題ですね。実際に特定秘密に指定される情報の量によっては、監査業務に専念する機関はあった方がいいかもしれません。
なお「内閣もその他行政機関も同じ行政機関で身内なんだから、身内チェックで甘くなるだろ?」というご指摘ですが、それなら第三者監査機関を置く際は内閣の下に置く訳にはいかないですね。最高裁判所の下にでも置くべきかと思います。

「何が特定秘密に指定されているか分からないのに、うっかり知ったらどうするんだ!」

第三条 2 行政機関の長は、前項の規定による指定をしたときは、政令で定めるところにより指定に関する記録を作成するとともに、当該指定に係る特定秘密の範囲を明らかにするため、特定秘密である情報について、次の各号のいずれかに掲げる措置を講ずるものとする。

 一 政令で定めるところにより、特定秘密である情報を記録する文書、図画、電磁的記録若しくは物件又は当該情報を化体する物件に特定秘密の表示をすること。

特定秘密の情報媒体には「特定秘密ですよ〜」との表示がされるので、うっかり知ってしまう恐れはなさそうです。気をつけろ、特定秘密印だ!

「無期限に秘密のままだなんて知る権利への冒涜だ!」

第四条 行政機関の長は、指定をするときは、当該指定の日から起算して五年を超えない範囲内においてその有効期間を定めるものとする。

デフォルトの有効期限は5年です。

第四条 2 行政機関の長は、指定の有効期間(この項の規定により延長した有効期間を含む。)が満了する時において、当該指定をした情報が前条第一項に規定する要件を満たすときは、政令で定めるところにより、五年を超えない範囲内においてその有効期間を延長するものとする。

第四条 3(修正案) 指定の有効期間は、通じて三十年を超えることができない。

延長はできますが、30年が最大です。

第四条 4(修正案) 前項の規定にかかわらず、政府の有するその諸活動を国民に説明する責務を全うする観点に立っても、なお指定に係る情報を公にしないことが現に我が国及び国民の安全を確保するためにやむを得ないものであることについて、その理由を示して、内閣の承認を得た場合(行政機関が会計検査院であるときを除く。)は、行政機関の長は、当該指定の有効期間を、通じて三十年を超えて延長することができる。ただし、次の各号に掲げる事項に関する情報を除き、指定の有効期間は、通じて六十年を超えることができない。
 一 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む。別表第一号において同じ。)
 二 現に行われている外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下同じ。)の政府又は国際機関との交渉に不利益を及ぼすおそれのある情報
 三 情報収集活動の手法又は能力
 四 人的情報源に関する情報
 五 暗号
 六 外国の政府又は国際機関から六十年を超えて指定を行うことを条件に提供された情報
 七 前各号に掲げる事項に関する情報に準ずるもので政令で定める重要な情報

本当の本当に有事の際はここまで延長できるともあります。

これ、結局30年が最大なのかそうでないのか解釈が割れるところだと思いますが、なぜわざわざ第三項と第四項を分けているのか分からないです。法律においてはこういう書き方は一般的なのでしょうか?その意図するところは何でしょうか。

※追記
「どうしてもやむを得ない例外中の例外」を表現するために法律ではこういう書き方をすることもあるそうです。でもどうしてもやむを得ない場合とは結局なんなのか……具体例を条文に書き込んでしまう訳にはいかないとは思いますが、日本語の難しさを感じます。

「特定秘密の指定・運用状況が分からなければ国民が検証する余地もない!」

第十九条(修正案) 政府は、毎年、前条第三項の意見を付して、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の状況について国会に報告するとともに、公表するものとする。

特定秘密の内容そのものは公表されないのでしょうが、指定状況は毎年公表されるようです。件数だけが淡々と報告される感じなのでしょうか……気になります。

「特定秘密に関する文書は永遠に闇の中だ!あとから検証できない!」

第四条 6(修正案) 行政機関の長は、第四項の内閣の承認が得られなかったときは、公文書等の管理に関する法律第八条第一項の規定にかかわらず、当該指定に係る情報が記録された行政文書ファイル等の保存期間の満了とともに、これを国立公文書館等に移管しなければならない。

少なくともこのケースに該当する事項に関しては関係資料は公文書館に保管されるようです。

公文書等の管理に関する法律」を見ましても、今回の特定秘密関連文書が例外となる根拠は見受けられません。したがって特定秘密に関する文書は指定解除後に既存の規定に従って公文書館に保管されると考えて良いと思います。この解釈は合っていますでしょうか?

「ジャーナリストが逮捕される!言論の自由の侵害だ!」

第二十二条(修正案) 2 出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。

どうやら法令違反でない通常の取材は正当業務行為として認められるようです。法令違反はどの道アウトですね。

「偶然特定秘密を知りえた無辜の市民が危険に晒される!」

別表を見る限り、無辜の市民が偶然特定秘密を知りえるのはかなり困難だと思います。まず、特定秘密は

第三条 行政機関の長は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、

とあるので、既に公表されている情報は含まれません。


図書館は出版済みの情報を扱う機関である以上、yuki_o氏の危惧するような「図書館員が偶然特定秘密を知り、逮捕・投獄される」状況の生起はかなり考えにくいです。あえてあり得るとしたらNDLのひとはそういうことがあるかもしれません……?
後は軍事関連の研究者の方々でしょうか。でも彼らは既に充分センシティブな(お察し)扱いを受けております。

特定秘密保護法違反の教唆や扇動だけでも罰則を受けるんだから乱用が懸念される!」

第二十五条(修正案) 第二十三条第一項又は前条第一項に規定する行為の遂行を共謀し、教唆し、又は煽動した者は、五年以下の懲役に処する。

これのことですね。

現行の刑法第六十一条においても

第六十一条  人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2  教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。

教唆犯は罰されることになっています。

もし教唆の処罰が拡大解釈による不当逮捕の温床であるなら同条文も問題にされなければいけませんが、現状でこの第六十一条の濫用が頻発しているとかそういう事情があるのでしょうか?
そうでなければ、特にこの特定秘密保護法案だけの「教唆」を問題視する理由にはならないかなと思います。

※追記
コメント欄でこの場合の「遂行」は実行を伴わない未遂の場合をも指し、拡大解釈の要因になり得るとのご指摘をいただきました。しかし同様の記述は国家公務員法にあるので、この箇所を問題視するなら国家公務員法をも改正せねばならないとのご指摘もあり、難しいところです。
一般に新法案内の語用は既存の法律を踏襲して(≒コピペして)いるケースが多く、新法を問題視するなら旧法も変えるべきだという問題が発生するようです。こういうのライブラリにならないのかなぁ……。