図書館学徒未満

図書館学に関する本を読んだり調べごとをしたりしています。はてなダイアリーから移行しました。

大学図書館は大学にどんどん鼻をつっこむしかないんじゃないかな

上記のような問題意識を持った状態で聞いた本フォーラム、とても興味深かったです。
中でも湘北短期大学様の図書館運営のあり方に「あーもうこれしかないよねー」という強い印象を持ちました。

湘北短期大学は小規模な大学で、図書館も正規職員が2人という驚くべき少なさで運営されているのですが、その分とても機動力がある運営をされておられます。
入試や広報といった他の部門の仕事にも積極的に関わり、多くの"出前授業"を運営して先生方の教育活動に関わり、今は自ら授業を持っていることでメインのカリキュラムにも関わりを持っています。

大学図書館はとかく学生や教員に来てもらわないと支援のしようがない機関とされていますが、それでは大学の周辺に置かれても仕方ないよな、やっぱり館から出て積極的に関わりに行かないとコアメンバーとはみなされないよな、と思いました。


湘北短期大学図書館でやっておられることは、いわば学内対象のアウトリーチサービスとも言えるのかもしれませんが、アウトリーチサービスという言葉もそれだけでは他人事感が漂いますね。まずは大学そのものが抱えているミッションと課題を自分たち自身のミッションと課題としてとらえ、それを大学全体で協力して解決していこうとする中で、自分たちがもっとも得意とするアプローチは何なのか?という考え方が自然とできているように感じました。

大学図書館はほとんどの場合メインの大学教育からは無視されているよね問題

のっけから煽りっぽくて恐縮ですが、大学図書館について考える際にはいつもこれがずっと頭にあります。
わたしの出身地は高等教育学分野ですが、大学での教育改善という話になった時の主戦場はFDや教授法の改善、オープンコースがどうしたこうした、これからはアクティブ・ラーニングだ云々といった事柄で、図書館の「と」の字も話題にはなりません。多くの高等教育開発推進センターは図書館学系分野の出身者をコアメンバーとして有していません。また、図書館を授業に活用しよう!という話も、図書館学系以外の大学教員からはほとんど出てこないです。
せいぜいラーニング・コモンズが少し話題になるくらいでしょうか。でも、ラーニング・コモンズも図書館から切り離されて論じられたりしています。


もちろん、大学にとって図書館がお荷物だという訳ではありません。研究活動は図書館がないと成り立たないですし、学生だって図書館がなければ宿題も困難でしょう。図書館が協力している導入教育は成果をあげていますし、大学の閲覧席は勉強する学生で満員です。中には豪華で先進的な図書館をアピールして学生を呼び込もうとする大学もあります。

でも、大学教育という観点から図書館を見た際にその姿はちっとも見えてこない。


大学図書館が色々と素晴らしい試みを行い、一定の成果をあげていることはわかります。また大学教育そのものに対して一定の知見や提言を持っていることもわかります。
ただそれは、大学の中心でカリキュラムを設計しているひとたちには届いていません。
「あー図書館なんだか頑張ってるねーえらいね、これからもがんばってね^^」
で終わっているんですよね。
そういうのすごくもったいないな、なんとかならないかなとずっと思っていました。

大学と大学図書館は対等じゃない

さらに煽りっぽくて(ry
これも前から思っていたことなのですが、大学と大学図書館は対等な組織ではありません。まず「大学」という大きな組織があり、その中の一部門として「大学図書館」があります。そして「大学」の持っている大きなミッション――教育や研究活動――を支援するために「大学図書館」がある、つまり大学図書館のミッションはまず大学ありきな訳です。その上で、大学図書館の専門性を活かしたサービスの独自性・独立性が必要となるのです。
これはごく当たり前のことだと思うのですが、大学図書館の実践報告からはいつも「で、それ、大学本体の活動とどう関係あるの?」が見えてこないなと思っていました。大学抜きで大学図書館のミッションが語られ実践がなされることにとても違和感がありました。

大学図書館と大学との関係はどうあるべきか

本稿は2013年の図書館総合展にて開催されたフォーラム
教育・学習支援に取り組む図書館員に今、求められるもの
〜事例から探る”教育・学習センター”としての図書館の未来像〜

を聞いている間にaliliputちゃんが色々考えたことを記述しています。当該フォーラムに参加されなかった方には一部意味が解らないかもしれません。フォーラムの実況はきっとどこかに落ちていると信じています。

図書館におけるビッグデータ活用がアツかった

id:xiao-2 様のこちらの記事
図書館総合展に行ってきた。〜フォーラム「図書館におけるビッグデータ活用を考える」後篇 - みききしたこと。おもうこと。
でレポートされていた図書館総合展ビッグデータ活用フォーラムですが、この前半のフロア質問者はわたしですw
そんな訳で(?)便乗する形ですが、このフォーラムなかなか面白かったよ〜という話をいたします。
フォーラムを見ていないと全然意味の解らないエントリですので、参加されなかった方はxiao-2様の元記事を先にご覧ください。


本フォーラムでSMOS( Stock Mix Optimization System )として紹介されていた手法ですが、これ理論的にはTOC(Theory Of Constraints)なんですよね。
今回のようなケースにおけるTOCの活用についての詳細は以下の本をご参照いただくとして、

ザ・クリスタルボール

ザ・クリスタルボール

むちゃくちゃざっくり説明しますと、パフォーマンス向上のボトルネックとなっている部分を割り出してそこを統計的に何とかすることで全体のパフォーマンスを上げましょうというマネジメント理論です。


例えばこれを小売店に適用するとすると

  • パフォーマンスの向上==売上の向上
  • ボトルネック==品切れによる機会損失

となり、品切れを起こさないようにするために最適な棚の配置や在庫管理は統計的にどうなんだろうね?という話に繋がっていくわけです。

これを現実に適用すると、あるパン屋さんでチョコクロワッサンが超絶大人気で、午前中には完売してしまうとして、売上をさらに向上させるにはチョコクロワッサンを並べる棚を増やし、まめにクロワッサンを焼いて品切れのないように補充しましょうという流れになる感じです。*1
……あっ、だんだん話が分かってきましたねw


本フォーラムで紹介されていた事例は「パフォーマンスの向上==貸出冊数の向上」と定義した上で、そのボトルネックとなっているのは「借りたい本が書架にないことによる機会損失」であるとされています。そうなると最適な棚の配置はまさしく書架の配置であり、最適な在庫管理とは最適な蔵書構成ということになります。その辺りを統計的に割り出すのがSMOSという技術なんですね。これにより資料費と開架スペースという有限のリソースを更に有効活用できるはずです。


お話を伺っていて個人的にとても感銘を受けたのは「シンガポール公用語は英語なんだけれども、近年は中国人人口が増えているし、図書館に中国語の本をもっと置くべきだ」という予測をこのシステムがはじき出した、というエピソードです。この予測はシンガポールの図書館司書たちの大方の予測を裏切るものでしたが、実際にシステムの予測通りに中国語の本を増やしたところ利用が増加した、という結果が出ました。*2

でもこのエピソード、決して司書による選書を否定するどころか、むしろこういうシステムを利用することで本来の専門性が必要とされるところの選書業務に専念できる可能性を示すものだなと思います。
SMOSによって予測できるのは
「中国語のビジネス書の利用が増えます」
「NDC913分類の利用が増えます」
ということだけで、具体的に「今年は東野圭吾の『プラチナデータ』が大爆発します」などと予想するものではありません。つまり、そのカテゴリ内にごまんとある本の山の中から真に所蔵にたる一冊を選ぶという、専門性を持った人間にしかできない仕事は依然として残るんですね。
それどころか「今年はこの分野の本は15タイトル」という枠が示されることで、そういう人間にしかできない選書はより重要性が高まるし、専念する時間も増えます。

パン屋さんだって「チョコクロワッサンが売れる」と分かっていれば、じゃあもっとチョコクロワッサンの味や見た目をよくするにはどうしたらいいだろう?という研究にリソースが割けます。「どのパンが売れるか分からないからそこそこの品質のパンをまんべんなく作るしかないか……」という状態から解放される訳です。
個人的には、こういった大枠の方針を決める作業は人間がやる必要はなくシステムにでも任せておいて、人間には人間ならではの知識技能やセンスが求められる繊細な仕事に専念した方が効率がいいし幸せになれると思っています。


また、今回のフォーラムでは「パフォーマンスの向上==貸出数の向上」と定義されていたわけですが、これはあくまで最初の定義づけの問題で、他の指標でもいいのです。
パフォーマンスの向上を貸出数ではなく館内閲覧数にしてもいいし、棚から抜き出された回数にしてもいいし、レファレンスサービスでの参照数にしてもいいでしょう。
ここをどう定義づけるかも人間にしかできない仕事です。
「もしSMOSをうちの図書館に入れるとしたら、ここではいったい何が『パフォーマンスの向上』にあたるだろう?」
と考えて話し合うのは、図書館の運営ポリシー固めや意識の共有を行ういい機会になると思います。


なんだかSMOSほめまくりなエントリになってしまいましたがw、個人的にはこういうみんなが幸せになれるデータ活用は大好きなので、ぜひ日本でも実験してくれる館が出てくれればな〜と思う次第です。


更にまったくの余談ですが、今回の発表者のCheng Hwee Sim氏はシンガポールの方ですが、横浜国立大学におられたことがあるそうです。それで日本語が堪能だったのでしょうね:) 本業は物流におけるデータ解析とのことでさもありなんと思いました。ぜひまたお話をお伺いしたいです。

*1:まったくの余談ですが、品切れを故意に誘発して品薄感を煽りブランドイメージを高める効果があるとされる、いわゆる「品薄商法」ですが、これはほとんどの場合機会損失の方が大きく、利益の期待できないマーケティング手法であることが統計的に判明しています。すごいぞ統計学!ありがとうTOC

*2:シンガポールの実験では利用者の属性情報を解析データに取り入れたために日本での実験よりも精度の高い結果が出たようです。我が国では属性情報の利用は難しいでしょうが、それでも当該図書館が存在する地域の人口動態はデータに含めたいところですね。たとえば地域全体では児童の数が増加しているのにと図書館内では児童書の利用が減っているとしたら何らかの問題があると察知できますが、図書館での利用統計データを見ているだけではそれが検出できません。

図書館総合展の武雄市フォーラムに行くひと、ちょっとこれ聞いてきて

別に武雄市のみについての話ではないのにタイトル煽りっぽくて恐縮ですが、いつも公共図書館の"利用者"アンケートを見るたびにこれを疑問に思うので。


この度10/30に開催される図書館総合展内フォーラム「“武雄市図書館”を検証する ニュースとなった〈武雄〉から〈公立図書館界〉がみえてくる」に行こうと思っていたのですが、同時間帯の別フォーラムに参加しますのでこちらには行けなさそうです。なのでこちらに参加される方がいらっしゃいましたら、もし可能であればこれから本稿に書くことを聞いてきて頂ければ幸いです。


武雄市では新しい図書館成功の証左として、利用者アンケートでの高い満足度を示していますが、利用者アンケートは図書館の現在の成功度評価や未来における成功可能性の検証材料として十分でしょうか?


貧富の差の拡大や貧困の悪循環、社会階層の固定化などという話をする際によく出てくる、公共インフラ劣化の悪循環という現象があります。
例えば電車のような、公共交通機関を例にとります。

ある市営バス路線で、その路線を利用している人たちから運賃値下げの要求があったとします。
その路線は沿線住民による通勤や通学などの利用が大半で、運賃を値下げしたところで利用者の拡大にはつながらないのですが、市営なので住民の期待に応えるために運賃値下げの要求に応じるとします。
この状態で運賃値下げの要求に応じると、利用者の数は変わらないので収益全体が落ち込みます。
そうすると、減った収益からバスの車両メンテナンスのコストや様々なサービス提供のコストを捻出しなければならないので、必然的にサービスレベルが低下します。利用者の比較的少ない時間帯のバスは本数が減らされるかもしれません。


そうすると、低下したサービスに不満を持った利用者が離れていきます。彼らはバスではなく徒歩や自転車、自家用車を使うようになります。
基本的にはこうしたタイミングで離れていく利用者は、自力で代替手段を用意できる富裕層が多いとされています。
こうしてバスは利用者が減り、さらに収益が落ちていきます。

また、最後まで残り続ける利用者層は、自力で代替手段を確保できない貧困層が多いとされています。
何よりも経済的なメリットを優先し続ける層が顧客として残り続けることで、治安などの悪化も副次的に招きます。
例えば彼らは「バス停のメンテナンスやバス内の清掃をするコストを削減して運賃を下げろ!」という要求をしてくるわけです。


この収益低下→サービスレベルの低下→利用者減→収益低下……の悪循環により、劣化していく公共インフラは現実にたくさんあります。
わが国ではそこまで深刻な貧富の差がないのであまり問題視されませんが、海外では鉄道、病院、公立学校、ひいては都市といった水準でも劣化がよく知られています。


なお、上記の例では値下げ要求が解りやすいからそれを例にとりましたが、値下げ要求以外でもサービスの範囲を狭める危険性を孕んだ要求はたくさんあります。
例えば公立学校で「子どもの箸の上げ下ろしも学校で教えるべきだ!」といった親の要求を受け入れると、生活マナーよりも勉学を優先させたいと考える親は子どもを公立学校ではなく私立学校に進学させるようになり、公立学校の学業成績が低下して……といったサイクルが発生したりします。


この悪循環を打破するには、今現在の利用者の要望を聞いているだけでは打破できません。
利用しない層の「利用しない理由」をも吸い上げ、それを改善していき、利用者層の厚みを保つ努力が必要になります*1


こういう悪循環は図書館においても当然発生し得ます。
収益第一の民間企業であれば、ターゲットとなる顧客層を絞ってそこに対して最適化されたサービスを提供し、利益が最大になればそれでいい*2のでしょうが、税金を使って運営されているインフラですとそうはいきません。

図書館でこうした悪循環を防ぐためには、利用者アンケートだけではなく非利用者に対しても調査を行い、意見を吸い上げていく継続的な仕組みが必要なんですが、武雄市ではその辺りはどのように設計・運営されているのでしょうか?


武雄市の図書館ばかりではなく、すべての公共図書館に共通する問題だと思いますので、ぜひ事例を多くお聞かせいただければと思います。

*1:ターゲッティングをするな、という意味ではなく、そのターゲッティングにインフラとしての正統性がどの程度担保されているのか、という点を問題としています

*2:しかし実際のところ民間企業でも顧客の絶対数は確保したいので、ある程度顧客層に厚みをもたせるよう振る舞うのが一般的です

教員や学生自身に向けてのインストラクショナルデザイン情報の提供

これは大学図書館向けのアイデアですね。図書館自身がインストラクショナルデザインを活用するというより、実際に教壇に立つ教員や自分で勉強会を主催する学生、ラーニングコモンズを活用してアクティブラーニングだぜ☆な利用者にインストラクショナルデザインについての情報やリソースを提供します。関連文献の提供はもちろんのこと、解りやすい資料の作り方や効果的な自主ゼミの運営方法についてガイダンスやミニセミナーを開催してもよいでしょう。


インストラクショナルデザインは教え方の技術ではありますが、翻って学び方にも多大な貢献をする技術でもあります。教員・学生双方にとって大いに役立つツールとなってくれることと思います。



以上、他にもアイデアやコメントをお寄せいただけますと幸いです。

ブックフェア企画の立案

どちらかというと公共図書館向けのアイデアかもしれません。あるテーマに沿って関連書籍を紹介するフェアや企画展示を行っている館は少なくないかと思いますが、そこにインストラクショナルデザインの知見を盛り込むものです。
利用者が自分の興味に従って本を選択する自由の尊重は大前提として、初心者向け-詳しい人向けという軸を想定したラインナップや、利用者の属性、すでに利用者が持っている知識・技能ごとに分類、といった観点も効果的かと思います。


インストラクショナルデザインは断片的な知識や技能の教授というより、それらの有機的なつながりを作り体系立てることで複雑な技能の修得や目標の達成を目的とするものです*1。なのであるテーマに沿って本を紹介する際、それぞれの本同士のつながりを考えながら本を選択・紹介すると、より深みのある企画が作れるのではないかと思います。

*1:なおインストラクショナルデザインと博物館展示は大変にエキサイティングなテーマなんですが、それはまた別の機会に